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光源氏のモデル――五つの宮廷史から

河北 騰 著

【主要目次】

【書評】

(「古代文化 第53巻 第6号」より)

『源氏物語』ブームといわれる近年、主人公光源氏の実在のモデルについても関心の高まるところである。本書は、歴史物語に精通されてきた著者が、特に五つの歴史物語に焦点をしぼられ、そこから光源氏のモデルを考究されたものである。しかし、いわゆる狭義な意味での人物論に走るのではなく、いわば光源氏のモデルというフィルターを通して歴史物語を通覧することによって、歴史物語そのものが持つ魅力に迫られたといえよう。

各論は、一編『栄華物語の道長像』、二編『大鏡の道長像――これこそ光源氏か――』、三編『今鏡に現れる光源氏』、四編『水鏡について――さまざまな古代の人間像――』、五編『「増鏡」に見る源氏物語の影響』、六編『「愚管抄」という史論書」などから構成されている。  

歴史物語を論じる時、常に『源氏物語』が与えた影響が問題にされるが、本書は歴史物語の随所に投影されている光源氏の姿の緻密な探求から、『源氏物語』の作品全体の構造を鮮明にされたことに注目したい。このように、歴史と文学という両分野からの見解を示された本書は、歴史物語の案内書としては勿論のこと、史実に基づく視野から『源氏物語』の世界を堪能できるものである。多くの方々にも興味を持っていただける一冊に挙げたい。