光源氏のモデル――五つの宮廷史から
河北 騰 著
- 選書4
- 四六判・上製・総436頁
- 本体2,800円
- ISBN4-7952-9215-9 C0395
【主要目次】
- 一編 栄花物語の道長像
- 村上朝の中宮と女御/若き花山帝の出家/中関白家の光と影/顕光一家の悲哀/道長の栄華と栄達
- 二編 大鏡の道長像
- 家門の争い/兼家をめぐる女性たち/藤原行成の人柄/藤原隆家の政治的立場/道長を大成させた女たち 三編 今鏡に現われる光源氏 院政の始まり後三条院/後三条を補佐する賢臣たち/光源氏の再現か/異能異才の人々/源氏物語評論/今鏡の用語や語彙
- 四編 水鏡について
- 「昔の世は良かった」は誤った考え/超人的な体型の帝や臣下/聖徳太子のこと/藤原百川の辣腕/「薬子の乱」について
- 五編 「増鏡」に見る源氏物語の影響
- 後鳥羽院と和歌のこと/源氏物語との関連/信頼する心の美しさ/栄華の讃美/驚くような三つの事件/「とはずがたり」に見る源氏物語
- 六編 「愚管抄」という史論書
- 愚管抄の比喩と語彙について/愚管抄の「道理史観」について
【書評】
(「古代文化 第53巻 第6号」より)
『源氏物語』ブームといわれる近年、主人公光源氏の実在のモデルについても関心の高まるところである。本書は、歴史物語に精通されてきた著者が、特に五つの歴史物語に焦点をしぼられ、そこから光源氏のモデルを考究されたものである。しかし、いわゆる狭義な意味での人物論に走るのではなく、いわば光源氏のモデルというフィルターを通して歴史物語を通覧することによって、歴史物語そのものが持つ魅力に迫られたといえよう。
各論は、一編『栄華物語の道長像』、二編『大鏡の道長像――これこそ光源氏か――』、三編『今鏡に現れる光源氏』、四編『水鏡について――さまざまな古代の人間像――』、五編『「増鏡」に見る源氏物語の影響』、六編『「愚管抄」という史論書」などから構成されている。
歴史物語を論じる時、常に『源氏物語』が与えた影響が問題にされるが、本書は歴史物語の随所に投影されている光源氏の姿の緻密な探求から、『源氏物語』の作品全体の構造を鮮明にされたことに注目したい。このように、歴史と文学という両分野からの見解を示された本書は、歴史物語の案内書としては勿論のこと、史実に基づく視野から『源氏物語』の世界を堪能できるものである。多くの方々にも興味を持っていただける一冊に挙げたい。