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近代詩歌精講 展望と評釋(復刻)

岡 一男 著

文芸、特に詩歌の研究の究極目的は、作品自体の本質の闡明・理曾にある。作家や環境の研究は、作品の芸術的享受への手段にすぎない。私がこの書で最も腐心したところもそれで、明治・大正・昭和の三代において創作された、民族詩のうち、最も古典的価値と近代的人間感覚と世界的な人類愛と叡智をもった秀れた作品をえらび、それらがおのがじしもつ深い思想や幽玄な感情や新しい感覚や微妙な韻律や精緻な構造を、いかにして若き世代の人々の享受にもちきたすかということであった。  そのため老婆心のそしりを甘受して、本文に相当突っ込んだ鑑賞・批評を試みているに拘らず、作品の一々に口語訳・散文訳・パラフレイズを施して脚註とした。これによって、稍々もすれば難解といわれる近代詩を何人にもたやすく理曾できるよう希求したのである。 (自敍より)