2 『源氏物語』はどんな物語か

『源氏物語の謎』増淵勝一 著 - 国研ウェブ文庫

一言でいうと、光源氏という貴公子の生涯と、その没後における一族の生活を綴った物語です。全五十四帖から成り、「桐壺」から「幻」までの正編四十一帖では光源氏の生誕から起筆し、藤壺・葵の上・紫の上・女三の宮らヒロインとの物語が展開し、出家直前までの生涯が描かれます。後編の「匂宮」「紅梅」「竹河」の三帖では、源氏没後の周囲の人々の生活を述べ、特に源氏の外孫である匂宮と、源氏の義子薫の生い立ちがくわしく語られます。ついで続編の「橋姫」から「夢浮橋」までの十帖では、宇治の八宮の姫君たち、大君・中の君・浮舟らを女主人公として、匂宮と薫との性格の対照と、恋愛における葛藤が描かれています。

正編は光源氏の恋愛生活を中心とし、続編は匂宮と薫の恋物語が主テーマになっているようにも思われます。実は恋愛は筋を運ぶ不可欠な要素にはなっていても、作者の本意はむしろこの世の権勢や恋愛の争闘における男女の宿命と、それに耐えていく美しい心ばえや、四季おりおりの風景美や、年中行事の人事美、音楽・絵画・書道・歌道等の芸術文化、儒学や陰陽道などの学問文化等を描くところにあります。また放恣な男性と優柔な女性との間に生ずる霊肉の葛藤や、一夫多妻制の中での男女の生きざまや、無常観から来る宗教的欲求やその挫折など、いわば人生の総価値批評が中心の主題になっているのです(岡一男博士『源氏物語事典』参照)。

正編の末巻「幻」はあの世の紫の上の霊魂を尋ねることのできる幻術士の意で、桐壺の更衣の魂を尋ねてくれる幻術士を求めた第一帖「桐壺」に呼応しています。また続編の「夢浮橋」巻にも呼応していて、この世のすべては夢幻であると、紫式部は言いたかったのかも知れません。

作成日:2008年6月6日

『源氏物語の謎』増淵勝一 著 目次

  1. 『源氏物語』はいつ書かれたか
  2. 『源氏物語』はどんな物語か
  3. 『源氏物語』の巻名はだれがつけたものか
  4. 『源氏物語』の時代設定はいつか
  5. 光源氏に愛された女性の中で、一番しあわせだったのはだれか
  6. 『源氏物語』の伝本にはどんなものがあるか
  7. 『源氏物語』の三大滑稽人物とはだれか?
  8. 『源氏物語』という書名ははじめから付けられていたものか?
  9. 『源氏物語』の「もののあはれ」とは何か?
  10. 紫式部の名の由来は?
  11. 光源氏はなぜ義母の藤壺を思慕したのか。
  12. 「桐壺」とは何か
  13. 「雨夜の品定め」とは何か
  14. 「帚木」とは何か
  15. 『源氏物語』の三箇(さんか)の大事(だいじ)とは何か
  16. 紫式部堕獄(だごく)説とは何か
  17. 『源氏物語』は古人にどう評価されたか。
  18. 紫式部はどういう生涯を送ったか
  19. 登場人物の名づけ親は誰か
  20. 源氏物語の文章の「すべらかし」調とは?
  21. 光源氏の「二条院」はどこにあったか
  22. 源氏物語に描かれた結婚形態とは
  23. 「紅葉賀(もみじのが)」とは何か
  24. 源氏物語に近親結婚が多いのはなぜか
  25. 結婚を拒否する女性
  26. 光源氏はどんな容貌・容姿であったか
  27. 源氏物語の遺跡にはどんなものがあるか
  28. 源氏物語の構成はどうなっているか
  29. 乳母(めのと)とは何か
  30. 源氏物語には何首の和歌があるか。
  31. 「総角」巻の巻名の由来は何か。
  32. 光源氏はなぜ須磨に籠居したのか。
  33. 「夢浮橋」の巻名の由来は何か
  34. 光源氏の経済的基盤はどこにあったか(1)
  35. 弘徽殿の大后のモデルは誰か
  36. 桐壺の更衣のモデルは誰か
  37. 紫式部観音化身説とは?
  38. 光源氏の経済的基盤はどこにあったか(2)
  39. 源氏物語』の登場人物は何人ぐらいいるか?
  40. 『源氏物語』に登場する敵役(かたきやく)
  41. 主な女君たちの命日
  42. 平安貴族の住居はどんなものであったか
  43. 宇治の八の宮は二人の姫君を残してなぜ出家を目指すことができたか
  44. 源氏物語が長い間読まれつづけているのはなぜか
  45. 『源氏物語』の最も古い注釈書とは
  46. 「かがやく日の宮」巻とは何か
  47. 「澪標」の巻名の由来は?
  48. 『源氏物語』に描かれた病気
  49. 紫式部の教養
  50. 古注の集大成―『河海抄』
  51. 世界文学史上の『源氏物語』
  52. 紫式部の学問観
  53. 光源氏薨後の夫人たちの生活は?
  54. 物怪(もののけ)とは何か
  55. 「宿木(やどりぎ)」とは?
  56. 女君たちの魅力は?
  57. 六条院とはどんな邸宅であったか
  58. 女三の宮と柏木との関係を知った光源氏はどう対処したか?
  59. 紫式部の住居はどこにあったか?
  60. 作り物語の『源氏物語』に実在の人物が登場するのはなぜか?
  61. 紫式部と藤原道長の関係について
  62. 源氏物語に及ぼした伊勢物語の影響
  63. 「鈴虫」の巻名の由来は?
  64. 「侍従」という女房の役割は何か
  65. 光源氏が一番美人だと認めていた女君は誰か
  66. 紫式部の墓はどこにあるか
  67. 「雲隠」の巻は原作にあったのか
  68. 男君たちの魅力は
  69. 源氏物語に見える音楽
  70. 年立ての矛盾
  71. 各巻のあらすじ(1)桐壺・帚木
  72. 女君を選ぶとしたら?
  73. 各巻のあらすじ(2)空蝉・夕顔
  74. 『源氏物語』の続編(1)―『山路の露』―
  75. 各巻のあらすじ(3)若紫・末摘花
  76. 『源氏物語奥入(おくいり)』とは
  77. 源氏香とは何か
  78. 平安時代の風呂はどんなものであったか
  79. 牛車(ぎっしゃ)とは何か
  80. 貴族の日常生活はどういうものであったか
  81. 源氏物語にはなぜ大災害が描かれていないのか
  82. 源氏物語にあらわれた宿世観
  83. 源氏物語に登場する僧侶
  84. 『源氏物語』の主役の条件

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