71 各巻のあらすじ(1)桐壺・帚木

『源氏物語の謎』増淵勝一 著 - 国研ウェブ文庫

1 桐壺

いつの御代であったか、帝が多くの女御・更衣の中で、故大納言の娘の桐壺の更衣を寵愛されたが、右大臣の娘の弘徽殿の女御をはじめ他の后妃たちから嫉妬・羨望はげしく、病床につく日が多く、男御子(第二皇子・光君)を生むと間もなく亡くなり、その母君も逝去する。

帝はこの母無し子の若宮を寵愛。高麗人の観相や倭相(やまとそう)などによって、この若宮が天皇になる相はありながら、そうなると国が乱れ、またただの人臣で終る方とも見えないと相するので、臣籍に降し、源氏の姓を授けた。

そのころ桐壺の更衣そっくりの先帝の女四の宮藤壺が入内。若宮も母恋しの心情から深く心にかけた。二人の美しさに、世の人は「光る源氏」「輝く日(妃)の宮」と称した。

若宮は十二歳で元服、加冠役の左大臣の一人娘の葵の上(十六歳)と結婚。美しいが取りすました葵の上の許に通うことは少なく、藤壺の宮が慕わしく、宮中に宿直(とのい)がちで、故母更衣の二条院を立派に修理。「思ふやうならむ人(藤壺)」と住みたいと嘆くのであった。

「光る君」という名は、あの高麗の相人が若宮の容貌に感嘆して付けたとも言い伝えられている。

2 帚木(ははきぎ)

源氏十七歳の夏。五月雨の一夜、御物忌(ものい)みで、源氏の宿直所の桐壺に、義兄の頭の中将や粋人の左馬頭や藤式部丞がやって来て、上・中・下の女性の品定めをするが、中流(受領階級)の女性に個性的で、魅力ある女性がいること。また妻とするには貞淑で、嫉妬をしない女性を選ぶべきこと。さらには思いがけない所に素敵な女性がいるといった話から、各々の体験談に花を咲かせた。源氏はこれによって中流の女性に興味を持つようになった。

翌日久しぶりに左大臣邸に帰ると、葵の上のご機嫌が悪い。たまたま今宵は内裏からは方塞がりだというので、方違えに、左大臣邸へお出入りの紀伊守の中川の新邸に向った。

ちょうど、紀伊守父の伊予介の後妻の空蝉が居合わせた。その夜、源氏は無理に空蝉と逢った。帰邸した後、空蝉の弟の小君に託してしばしば彼女に文を送り、再び中川の宿を訪れて空蝉に逢おうとするが、彼女は信州園原の伏屋にある帚木のように、姿を消してしまった。

作成日:2015年4月25日

『源氏物語の謎』増淵勝一 著 目次

  1. 『源氏物語』はいつ書かれたか
  2. 『源氏物語』はどんな物語か
  3. 『源氏物語』の巻名はだれがつけたものか
  4. 『源氏物語』の時代設定はいつか
  5. 光源氏に愛された女性の中で、一番しあわせだったのはだれか
  6. 『源氏物語』の伝本にはどんなものがあるか
  7. 『源氏物語』の三大滑稽人物とはだれか?
  8. 『源氏物語』という書名ははじめから付けられていたものか?
  9. 『源氏物語』の「もののあはれ」とは何か?
  10. 紫式部の名の由来は?
  11. 光源氏はなぜ義母の藤壺を思慕したのか。
  12. 「桐壺」とは何か
  13. 「雨夜の品定め」とは何か
  14. 「帚木」とは何か
  15. 『源氏物語』の三箇(さんか)の大事(だいじ)とは何か
  16. 紫式部堕獄(だごく)説とは何か
  17. 『源氏物語』は古人にどう評価されたか。
  18. 紫式部はどういう生涯を送ったか
  19. 登場人物の名づけ親は誰か
  20. 源氏物語の文章の「すべらかし」調とは?
  21. 光源氏の「二条院」はどこにあったか
  22. 源氏物語に描かれた結婚形態とは
  23. 「紅葉賀(もみじのが)」とは何か
  24. 源氏物語に近親結婚が多いのはなぜか
  25. 結婚を拒否する女性
  26. 光源氏はどんな容貌・容姿であったか
  27. 源氏物語の遺跡にはどんなものがあるか
  28. 源氏物語の構成はどうなっているか
  29. 乳母(めのと)とは何か
  30. 源氏物語には何首の和歌があるか。
  31. 「総角」巻の巻名の由来は何か。
  32. 光源氏はなぜ須磨に籠居したのか。
  33. 「夢浮橋」の巻名の由来は何か
  34. 光源氏の経済的基盤はどこにあったか(1)
  35. 弘徽殿の大后のモデルは誰か
  36. 桐壺の更衣のモデルは誰か
  37. 紫式部観音化身説とは?
  38. 光源氏の経済的基盤はどこにあったか(2)
  39. 源氏物語』の登場人物は何人ぐらいいるか?
  40. 『源氏物語』に登場する敵役(かたきやく)
  41. 主な女君たちの命日
  42. 平安貴族の住居はどんなものであったか
  43. 宇治の八の宮は二人の姫君を残してなぜ出家を目指すことができたか
  44. 源氏物語が長い間読まれつづけているのはなぜか
  45. 『源氏物語』の最も古い注釈書とは
  46. 「かがやく日の宮」巻とは何か
  47. 「澪標」の巻名の由来は?
  48. 『源氏物語』に描かれた病気
  49. 紫式部の教養
  50. 古注の集大成―『河海抄』
  51. 世界文学史上の『源氏物語』
  52. 紫式部の学問観
  53. 光源氏薨後の夫人たちの生活は?
  54. 物怪(もののけ)とは何か
  55. 「宿木(やどりぎ)」とは?
  56. 女君たちの魅力は?
  57. 六条院とはどんな邸宅であったか
  58. 女三の宮と柏木との関係を知った光源氏はどう対処したか?
  59. 紫式部の住居はどこにあったか?
  60. 作り物語の『源氏物語』に実在の人物が登場するのはなぜか?
  61. 紫式部と藤原道長の関係について
  62. 源氏物語に及ぼした伊勢物語の影響
  63. 「鈴虫」の巻名の由来は?
  64. 「侍従」という女房の役割は何か
  65. 光源氏が一番美人だと認めていた女君は誰か
  66. 紫式部の墓はどこにあるか
  67. 「雲隠」の巻は原作にあったのか
  68. 男君たちの魅力は
  69. 源氏物語に見える音楽
  70. 年立ての矛盾
  71. 各巻のあらすじ(1)桐壺・帚木
  72. 女君を選ぶとしたら?
  73. 各巻のあらすじ(2)空蝉・夕顔
  74. 『源氏物語』の続編(1)―『山路の露』―
  75. 各巻のあらすじ(3)若紫・末摘花
  76. 『源氏物語奥入(おくいり)』とは
  77. 源氏香とは何か
  78. 平安時代の風呂はどんなものであったか
  79. 牛車(ぎっしゃ)とは何か
  80. 貴族の日常生活はどういうものであったか
  81. 源氏物語にはなぜ大災害が描かれていないのか
  82. 源氏物語にあらわれた宿世観
  83. 源氏物語に登場する僧侶
  84. 『源氏物語』の主役の条件

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