39 『源氏物語』の登場人物は何人ぐらいいるか?

『源氏物語の謎』増淵勝一 著 - 国研ウェブ文庫

『源氏物語』に登場する人物は、四百三十余人に達しています。単に子ども何人とか、娘が三人とか、数人の従者や家司といった記述もありますから、そういう人物をも数え上げたら、もっと多人数になるでしょう。

その主要人物の性格描写は精彩で、個性的であり、遺伝の事実にまで注意しています。たとえば光源氏の性格は、父の桐壺帝の性格と母の更衣の性格を受けて、色好みの性格である一方、内心はまじめで、芸術的才能も豊かであるとされています。また頭の中将の負けぎらいで、しかも熱情的な性格が、その娘の雲井の雁や柏木に反映していたり、一方いささか滑稽味のあるところが、近江の君に顕著に伝わっていることがわかります。

夕霧はまじめな性格だと思われていたのに、三十歳すぎになって落葉の宮に心を奪われてしまいます。父の源氏の遺伝もありますが、端厳な母の葵の上の影響ということも考えられているのでしょう。

源氏の孫の匂宮は好色な性格とされ、また柏木の子の薫も、優柔不断である一方、相手に執着する性格とされています。これも性格の父子相伝といえます。

このように各人物の性格をきわ立たせる紫式部の筆法はみごとと言うほかありません。脇役についても、たとえば、紫の上の飼っていた雀の子を逃がしてしまったいぬきは、その後も紫の上の人形をこわすなどして、いたずらっ子として統一的に描かれています。

その他、光君のマザー・コンプレックスの傾向も活写。才芸などについても源氏は琴(きん)の名手とされ、蛍兵部卿の宮は琵琶、柏木の弟の紅梅の右大臣は唱歌にすぐれ、大宮、その子の頭の中将らは和琴、明石入道、その娘の明石の御方は箏の琴、柏木、その子の薫は笛の名手というように楽音も一家に伝統的に伝わっていると、式部は個性的に書きわけているのです。

作成日:2013年11月9日

『源氏物語の謎』増淵勝一 著 目次

  1. 『源氏物語』はいつ書かれたか
  2. 『源氏物語』はどんな物語か
  3. 『源氏物語』の巻名はだれがつけたものか
  4. 『源氏物語』の時代設定はいつか
  5. 光源氏に愛された女性の中で、一番しあわせだったのはだれか
  6. 『源氏物語』の伝本にはどんなものがあるか
  7. 『源氏物語』の三大滑稽人物とはだれか?
  8. 『源氏物語』という書名ははじめから付けられていたものか?
  9. 『源氏物語』の「もののあはれ」とは何か?
  10. 紫式部の名の由来は?
  11. 光源氏はなぜ義母の藤壺を思慕したのか。
  12. 「桐壺」とは何か
  13. 「雨夜の品定め」とは何か
  14. 「帚木」とは何か
  15. 『源氏物語』の三箇(さんか)の大事(だいじ)とは何か
  16. 紫式部堕獄(だごく)説とは何か
  17. 『源氏物語』は古人にどう評価されたか。
  18. 紫式部はどういう生涯を送ったか
  19. 登場人物の名づけ親は誰か
  20. 源氏物語の文章の「すべらかし」調とは?
  21. 光源氏の「二条院」はどこにあったか
  22. 源氏物語に描かれた結婚形態とは
  23. 「紅葉賀(もみじのが)」とは何か
  24. 源氏物語に近親結婚が多いのはなぜか
  25. 結婚を拒否する女性
  26. 光源氏はどんな容貌・容姿であったか
  27. 源氏物語の遺跡にはどんなものがあるか
  28. 源氏物語の構成はどうなっているか
  29. 乳母(めのと)とは何か
  30. 源氏物語には何首の和歌があるか。
  31. 「総角」巻の巻名の由来は何か。
  32. 光源氏はなぜ須磨に籠居したのか。
  33. 「夢浮橋」の巻名の由来は何か
  34. 光源氏の経済的基盤はどこにあったか(1)
  35. 弘徽殿の大后のモデルは誰か
  36. 桐壺の更衣のモデルは誰か
  37. 紫式部観音化身説とは?
  38. 光源氏の経済的基盤はどこにあったか(2)
  39. 源氏物語』の登場人物は何人ぐらいいるか?
  40. 『源氏物語』に登場する敵役(かたきやく)
  41. 主な女君たちの命日
  42. 平安貴族の住居はどんなものであったか
  43. 宇治の八の宮は二人の姫君を残してなぜ出家を目指すことができたか
  44. 源氏物語が長い間読まれつづけているのはなぜか
  45. 『源氏物語』の最も古い注釈書とは
  46. 「かがやく日の宮」巻とは何か
  47. 「澪標」の巻名の由来は?
  48. 『源氏物語』に描かれた病気
  49. 紫式部の教養
  50. 古注の集大成―『河海抄』
  51. 世界文学史上の『源氏物語』
  52. 紫式部の学問観
  53. 光源氏薨後の夫人たちの生活は?
  54. 物怪(もののけ)とは何か
  55. 「宿木(やどりぎ)」とは?
  56. 女君たちの魅力は?
  57. 六条院とはどんな邸宅であったか
  58. 女三の宮と柏木との関係を知った光源氏はどう対処したか?
  59. 紫式部の住居はどこにあったか?
  60. 作り物語の『源氏物語』に実在の人物が登場するのはなぜか?
  61. 紫式部と藤原道長の関係について
  62. 源氏物語に及ぼした伊勢物語の影響
  63. 「鈴虫」の巻名の由来は?
  64. 「侍従」という女房の役割は何か
  65. 光源氏が一番美人だと認めていた女君は誰か
  66. 紫式部の墓はどこにあるか
  67. 「雲隠」の巻は原作にあったのか
  68. 男君たちの魅力は
  69. 源氏物語に見える音楽
  70. 年立ての矛盾
  71. 各巻のあらすじ(1)桐壺・帚木
  72. 女君を選ぶとしたら?
  73. 各巻のあらすじ(2)空蝉・夕顔
  74. 『源氏物語』の続編(1)―『山路の露』―
  75. 各巻のあらすじ(3)若紫・末摘花
  76. 『源氏物語奥入(おくいり)』とは
  77. 源氏香とは何か
  78. 平安時代の風呂はどんなものであったか
  79. 牛車(ぎっしゃ)とは何か
  80. 貴族の日常生活はどういうものであったか
  81. 源氏物語にはなぜ大災害が描かれていないのか
  82. 源氏物語にあらわれた宿世観
  83. 源氏物語に登場する僧侶
  84. 『源氏物語』の主役の条件

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