29 乳母(めのと)とは何か
『源氏物語の謎』増淵勝一 著 - 国研ウェブ文庫
乳母は生母に代り、子ども(主人)に乳を飲ませ、養育する女性です。その子どもの監督者のような立場にいて、ふつうの女房とは別格の人です。ときには母親以上に子どもに影響力を発揮します。
男の子の乳母は、その子が成人式を迎えると、お役御免となって、実家に帰ります。女の子の乳母は、その子が成人し、結婚しても、とつぎ先に同行するなど、一生涯子ども(主人)に付き添い、世話をします。
貴族の家では、若君や姫君の世話をする乳母は一人とは限りません。光源氏の乳母には最も重んぜられた大弐の乳母のほか、左衛門の乳母などがいました。夕顔の乳母にも右近の母や、大宰少弐の妻であった乳母がおりました。
乳母は原則として自分の子を出産し、そのお乳で主家の子女(主人)を育てます。そこで乳母の実子、つまり乳母子も、お乳をあげる主人と同年齢のことが多く、主人に対しては格別近しい関係にありました。万一乳母が亡くなったりしますと、残された主人に今度は乳母子が仕えるのが一般です。末摘花に仕えていた侍従などもその一人です。
光源氏の乳母子(大弐の三位の子)の惟光(これみつ)は、幼いときから源氏のお供をし、その秘密などにもかかわりました。その後惟光の娘の藤典侍(とうないしのすけ)が夕霧の側室になるなどして、最後には公卿となりました。乳母子の出世頭といってもよいでしょう。
貴族の姫君は子どもを出産しても授乳をしない、というのが原則のようです。もっとも夕霧の北の方の雲井雁はみずから授乳をしており、その姿が『源氏物語絵巻』「横笛」巻の一シーンにも描かれています。母性本能を発揮した姫君もいたわけです。
『源氏物語の謎』増淵勝一 著 目次
- 『源氏物語』はいつ書かれたか
- 『源氏物語』はどんな物語か
- 『源氏物語』の巻名はだれがつけたものか
- 『源氏物語』の時代設定はいつか
- 光源氏に愛された女性の中で、一番しあわせだったのはだれか
- 『源氏物語』の伝本にはどんなものがあるか
- 『源氏物語』の三大滑稽人物とはだれか?
- 『源氏物語』という書名ははじめから付けられていたものか?
- 『源氏物語』の「もののあはれ」とは何か?
- 紫式部の名の由来は?
- 光源氏はなぜ義母の藤壺を思慕したのか。
- 「桐壺」とは何か
- 「雨夜の品定め」とは何か
- 「帚木」とは何か
- 『源氏物語』の三箇(さんか)の大事(だいじ)とは何か
- 紫式部堕獄(だごく)説とは何か
- 『源氏物語』は古人にどう評価されたか。
- 紫式部はどういう生涯を送ったか
- 登場人物の名づけ親は誰か
- 源氏物語の文章の「すべらかし」調とは?
- 光源氏の「二条院」はどこにあったか
- 源氏物語に描かれた結婚形態とは
- 「紅葉賀(もみじのが)」とは何か
- 源氏物語に近親結婚が多いのはなぜか
- 結婚を拒否する女性
- 光源氏はどんな容貌・容姿であったか
- 源氏物語の遺跡にはどんなものがあるか
- 源氏物語の構成はどうなっているか
- 乳母(めのと)とは何か
- 源氏物語には何首の和歌があるか。
- 「総角」巻の巻名の由来は何か。
- 光源氏はなぜ須磨に籠居したのか。
- 「夢浮橋」の巻名の由来は何か
- 光源氏の経済的基盤はどこにあったか(1)
- 弘徽殿の大后のモデルは誰か
- 桐壺の更衣のモデルは誰か
- 紫式部観音化身説とは?
- 光源氏の経済的基盤はどこにあったか(2)
- 源氏物語』の登場人物は何人ぐらいいるか?
- 『源氏物語』に登場する敵役(かたきやく)
- 主な女君たちの命日
- 平安貴族の住居はどんなものであったか
- 宇治の八の宮は二人の姫君を残してなぜ出家を目指すことができたか
- 源氏物語が長い間読まれつづけているのはなぜか
- 『源氏物語』の最も古い注釈書とは
- 「かがやく日の宮」巻とは何か
- 「澪標」の巻名の由来は?
- 『源氏物語』に描かれた病気
- 紫式部の教養
- 古注の集大成―『河海抄』
- 世界文学史上の『源氏物語』
- 紫式部の学問観
- 光源氏薨後の夫人たちの生活は?
- 物怪(もののけ)とは何か
- 「宿木(やどりぎ)」とは?
- 女君たちの魅力は?
- 六条院とはどんな邸宅であったか
- 女三の宮と柏木との関係を知った光源氏はどう対処したか?
- 紫式部の住居はどこにあったか?
- 作り物語の『源氏物語』に実在の人物が登場するのはなぜか?
- 紫式部と藤原道長の関係について
- 源氏物語に及ぼした伊勢物語の影響
- 「鈴虫」の巻名の由来は?
- 「侍従」という女房の役割は何か
- 光源氏が一番美人だと認めていた女君は誰か
- 紫式部の墓はどこにあるか
- 「雲隠」の巻は原作にあったのか
- 男君たちの魅力は
- 源氏物語に見える音楽
- 年立ての矛盾
- 各巻のあらすじ(1)桐壺・帚木
- 女君を選ぶとしたら?
- 各巻のあらすじ(2)空蝉・夕顔
- 『源氏物語』の続編(1)―『山路の露』―
- 各巻のあらすじ(3)若紫・末摘花
- 『源氏物語奥入(おくいり)』とは
- 源氏香とは何か
- 平安時代の風呂はどんなものであったか
- 牛車(ぎっしゃ)とは何か
- 貴族の日常生活はどういうものであったか
- 源氏物語にはなぜ大災害が描かれていないのか
- 源氏物語にあらわれた宿世観
- 源氏物語に登場する僧侶
- 『源氏物語』の主役の条件
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