68 男君たちの魅力は
『源氏物語の謎』増淵勝一 著 - 国研ウェブ文庫
本書56の「女君たちの魅力は」にひきつづき、今回は『源氏物語』に登場する男君たちの魅力はどこにあるのか検討してみましょう。これも女君の場合と同じく、十三年間に及んだ私の「源氏物語講座」の聴講生の皆さんのコメントに、私見を加えてまとめてみました。
- 明石入道 一家再興の夢を信じ、その実現を娘に託して、遂に成功。住吉の神を信仰、信念を曲げない。出家らしからぬ俗人めいた言動もあったが、繁栄すると見届けると隠棲。
- 薫 女三の宮の子。源氏の子とされるが、実父は柏木。幼少時から自分の出生に疑問を抱きつづけ、宇治の八の宮に仏教を学ぶが、出家もできず、八の宮の姫君たち、大君・中の君・浮舟との恋に失敗。優柔不断。
- 桐壺帝 最愛の子光源氏と最愛の后藤壺とに裏切られながらも、二人を愛しつづける懐の深さ。治世はおさまり、権威があった。
- 惟光 乳母子として光源氏のために身命を尽して奉仕。のちには娘が夕霧と結ばれ、惟光は公卿に昇任。サクセス物語を実現。
- 頭の中将(内大臣) 常に源氏に負けまいと競争心を持っていて、雲井雁と夕霧の結婚にもはじめは反対。一方不遇な須磨の源氏を見舞ったり、紫の上亡きあと、源氏をしばしば慰めに訪れるなど、友情も持っていた。少し派手で、近江の君などを相手にユーモアも持ち合わせていた。
- 匂の宮 源氏の娘の明石中宮と今上との間に生まれる。好色で、情熱があり、行動的。宇治の中の君との間に一子をもうける。その異母妹の浮舟を薫から奪い、三角関係になった。歌も絵も香道も上手であった。
- 光源氏 全てが自分の思いどおりに働くという確信と自信、うぬぼれの持ち主。権力維持の方策を冷静に考える人。単なる浮気男ではなく、自分を愛する女性は忘れず、最後まで面倒を見るという誠実さがある。須磨・明石流謫の間に漁夫や山住みの者などとも交流し、聖人の風格をも備えるに至る。母桐壺の更衣の面影を求めつづけるマザ・コン気味のところもあった。
- 髭黒大将 「色黒く髭がちに見える」ので髭黒と呼ばれる。今上の母女御、承香殿の兄で、真木柱の父。女房の手引きで玉鬘を妻とし、前妻とは離婚。「ひたおもむきにすす」む性格。夕霧政権のできるまでの橋渡しの役でもあった。
- 蛍兵部卿の宮 源氏の異母弟。絵画・和歌・音楽・文芸などの諸道に通じ、各種会合での判者をつとめる。身内の中では源氏の一番の理解者。
- 夕霧 学問に励み、雲井雁との恋を成就させた純粋さ。後年親友の未亡人の落葉の宮への一途な恋を実現。晩年、薫や匂の宮らのお目付け役として、煙たがられる。まじめなだけに、一途になりすぎて、周囲から疎んぜられるところがある。
読者の皆さんの男君に対する評価・印象はいかがでしょうか。機会があったらお聞かせ願いたいものです。
作成日:2015年3月5日
『源氏物語の謎』増淵勝一 著 目次
- 『源氏物語』はいつ書かれたか
- 『源氏物語』はどんな物語か
- 『源氏物語』の巻名はだれがつけたものか
- 『源氏物語』の時代設定はいつか
- 光源氏に愛された女性の中で、一番しあわせだったのはだれか
- 『源氏物語』の伝本にはどんなものがあるか
- 『源氏物語』の三大滑稽人物とはだれか?
- 『源氏物語』という書名ははじめから付けられていたものか?
- 『源氏物語』の「もののあはれ」とは何か?
- 紫式部の名の由来は?
- 光源氏はなぜ義母の藤壺を思慕したのか。
- 「桐壺」とは何か
- 「雨夜の品定め」とは何か
- 「帚木」とは何か
- 『源氏物語』の三箇(さんか)の大事(だいじ)とは何か
- 紫式部堕獄(だごく)説とは何か
- 『源氏物語』は古人にどう評価されたか。
- 紫式部はどういう生涯を送ったか
- 登場人物の名づけ親は誰か
- 源氏物語の文章の「すべらかし」調とは?
- 光源氏の「二条院」はどこにあったか
- 源氏物語に描かれた結婚形態とは
- 「紅葉賀(もみじのが)」とは何か
- 源氏物語に近親結婚が多いのはなぜか
- 結婚を拒否する女性
- 光源氏はどんな容貌・容姿であったか
- 源氏物語の遺跡にはどんなものがあるか
- 源氏物語の構成はどうなっているか
- 乳母(めのと)とは何か
- 源氏物語には何首の和歌があるか。
- 「総角」巻の巻名の由来は何か。
- 光源氏はなぜ須磨に籠居したのか。
- 「夢浮橋」の巻名の由来は何か
- 光源氏の経済的基盤はどこにあったか(1)
- 弘徽殿の大后のモデルは誰か
- 桐壺の更衣のモデルは誰か
- 紫式部観音化身説とは?
- 光源氏の経済的基盤はどこにあったか(2)
- 源氏物語』の登場人物は何人ぐらいいるか?
- 『源氏物語』に登場する敵役(かたきやく)
- 主な女君たちの命日
- 平安貴族の住居はどんなものであったか
- 宇治の八の宮は二人の姫君を残してなぜ出家を目指すことができたか
- 源氏物語が長い間読まれつづけているのはなぜか
- 『源氏物語』の最も古い注釈書とは
- 「かがやく日の宮」巻とは何か
- 「澪標」の巻名の由来は?
- 『源氏物語』に描かれた病気
- 紫式部の教養
- 古注の集大成―『河海抄』
- 世界文学史上の『源氏物語』
- 紫式部の学問観
- 光源氏薨後の夫人たちの生活は?
- 物怪(もののけ)とは何か
- 「宿木(やどりぎ)」とは?
- 女君たちの魅力は?
- 六条院とはどんな邸宅であったか
- 女三の宮と柏木との関係を知った光源氏はどう対処したか?
- 紫式部の住居はどこにあったか?
- 作り物語の『源氏物語』に実在の人物が登場するのはなぜか?
- 紫式部と藤原道長の関係について
- 源氏物語に及ぼした伊勢物語の影響
- 「鈴虫」の巻名の由来は?
- 「侍従」という女房の役割は何か
- 光源氏が一番美人だと認めていた女君は誰か
- 紫式部の墓はどこにあるか
- 「雲隠」の巻は原作にあったのか
- 男君たちの魅力は
- 源氏物語に見える音楽
- 年立ての矛盾
- 各巻のあらすじ(1)桐壺・帚木
- 女君を選ぶとしたら?
- 各巻のあらすじ(2)空蝉・夕顔
- 『源氏物語』の続編(1)―『山路の露』―
- 各巻のあらすじ(3)若紫・末摘花
- 『源氏物語奥入(おくいり)』とは
- 源氏香とは何か
- 平安時代の風呂はどんなものであったか
- 牛車(ぎっしゃ)とは何か
- 貴族の日常生活はどういうものであったか
- 源氏物語にはなぜ大災害が描かれていないのか
- 源氏物語にあらわれた宿世観
- 源氏物語に登場する僧侶
- 『源氏物語』の主役の条件
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