21 光源氏の「二条院」はどこにあったか

『源氏物語の謎』増淵勝一 著 - 国研ウェブ文庫

二条院は光源氏の生家であり、少青年期をここで過ごし、六条院が出来るまでは(「少女」巻)、この二条院が源氏の住居でありました。

一般的に言えば、二条通りに邸宅が面していれば、二条院とか二条第とか呼ばれることになります。たとえば村上天皇母后の藤原隠子の二条院(二条の北、堀川の東)・一条天皇の中宮定子が入った小二条第(二条の北、東の洞院の西)・藤原定家の二条京極家(二条の北、京極の西)・二条富小路の内裏(二条の南、富小路の西)等々、王朝時代の貴族の豪壮な邸宅が二条通りの南北沿いに、何棟も存在していました(『二中暦』『拾芥抄』等)。

光源氏の二条院は、「賢木」の巻の斎宮母娘(六条御息所とのちの秋好中宮)が伊勢へ下向する条に、一行が内裏を出て、「二条より洞院(とうゐん)の大路を折れ給ふほど、二条の院の前なれば」とあるので、二条通りの南、東の洞院通りの東にあったことになります。

実はここには入道大相国兼家が造り、道長を経て、頼通の弟の教通に伝領された二条殿があったとされています。それで教通を二条関白とも言うのです(『拾芥抄』)。当然ながら紫式部存生の時代には、道長の屋敷の一つでもあったわけです。光源氏のモデルとして式部が誰をイメージしていたかがわかるでしょう。

源氏の二条院は、桐壺の更衣の母の邸でありました。そこで更衣が生育し、光源氏が伝領。源氏は須磨に流謫する際、二条院や所領などを皆紫の上に贈ります(「須磨」)。紫の上が亡くなった後(「御法」)、この邸は養女の明石中宮に伝わって、その子の匂宮の居邸となり、匂宮は宇治の中の君を当邸の西の対に迎えたのでした(「早蕨」)。源氏一族のヒロインの住居が二条院なのですね。

作成日:2013年2月10日

『源氏物語の謎』増淵勝一 著 目次

  1. 『源氏物語』はいつ書かれたか
  2. 『源氏物語』はどんな物語か
  3. 『源氏物語』の巻名はだれがつけたものか
  4. 『源氏物語』の時代設定はいつか
  5. 光源氏に愛された女性の中で、一番しあわせだったのはだれか
  6. 『源氏物語』の伝本にはどんなものがあるか
  7. 『源氏物語』の三大滑稽人物とはだれか?
  8. 『源氏物語』という書名ははじめから付けられていたものか?
  9. 『源氏物語』の「もののあはれ」とは何か?
  10. 紫式部の名の由来は?
  11. 光源氏はなぜ義母の藤壺を思慕したのか。
  12. 「桐壺」とは何か
  13. 「雨夜の品定め」とは何か
  14. 「帚木」とは何か
  15. 『源氏物語』の三箇(さんか)の大事(だいじ)とは何か
  16. 紫式部堕獄(だごく)説とは何か
  17. 『源氏物語』は古人にどう評価されたか。
  18. 紫式部はどういう生涯を送ったか
  19. 登場人物の名づけ親は誰か
  20. 源氏物語の文章の「すべらかし」調とは?
  21. 光源氏の「二条院」はどこにあったか
  22. 源氏物語に描かれた結婚形態とは
  23. 「紅葉賀(もみじのが)」とは何か
  24. 源氏物語に近親結婚が多いのはなぜか
  25. 結婚を拒否する女性
  26. 光源氏はどんな容貌・容姿であったか
  27. 源氏物語の遺跡にはどんなものがあるか
  28. 源氏物語の構成はどうなっているか
  29. 乳母(めのと)とは何か
  30. 源氏物語には何首の和歌があるか。
  31. 「総角」巻の巻名の由来は何か。
  32. 光源氏はなぜ須磨に籠居したのか。
  33. 「夢浮橋」の巻名の由来は何か
  34. 光源氏の経済的基盤はどこにあったか(1)
  35. 弘徽殿の大后のモデルは誰か
  36. 桐壺の更衣のモデルは誰か
  37. 紫式部観音化身説とは?
  38. 光源氏の経済的基盤はどこにあったか(2)
  39. 源氏物語』の登場人物は何人ぐらいいるか?
  40. 『源氏物語』に登場する敵役(かたきやく)
  41. 主な女君たちの命日
  42. 平安貴族の住居はどんなものであったか
  43. 宇治の八の宮は二人の姫君を残してなぜ出家を目指すことができたか
  44. 源氏物語が長い間読まれつづけているのはなぜか
  45. 『源氏物語』の最も古い注釈書とは
  46. 「かがやく日の宮」巻とは何か
  47. 「澪標」の巻名の由来は?
  48. 『源氏物語』に描かれた病気
  49. 紫式部の教養
  50. 古注の集大成―『河海抄』
  51. 世界文学史上の『源氏物語』
  52. 紫式部の学問観
  53. 光源氏薨後の夫人たちの生活は?
  54. 物怪(もののけ)とは何か
  55. 「宿木(やどりぎ)」とは?
  56. 女君たちの魅力は?
  57. 六条院とはどんな邸宅であったか
  58. 女三の宮と柏木との関係を知った光源氏はどう対処したか?
  59. 紫式部の住居はどこにあったか?
  60. 作り物語の『源氏物語』に実在の人物が登場するのはなぜか?
  61. 紫式部と藤原道長の関係について
  62. 源氏物語に及ぼした伊勢物語の影響
  63. 「鈴虫」の巻名の由来は?
  64. 「侍従」という女房の役割は何か
  65. 光源氏が一番美人だと認めていた女君は誰か
  66. 紫式部の墓はどこにあるか
  67. 「雲隠」の巻は原作にあったのか
  68. 男君たちの魅力は
  69. 源氏物語に見える音楽
  70. 年立ての矛盾
  71. 各巻のあらすじ(1)桐壺・帚木
  72. 女君を選ぶとしたら?
  73. 各巻のあらすじ(2)空蝉・夕顔
  74. 『源氏物語』の続編(1)―『山路の露』―
  75. 各巻のあらすじ(3)若紫・末摘花
  76. 『源氏物語奥入(おくいり)』とは
  77. 源氏香とは何か
  78. 平安時代の風呂はどんなものであったか
  79. 牛車(ぎっしゃ)とは何か
  80. 貴族の日常生活はどういうものであったか
  81. 源氏物語にはなぜ大災害が描かれていないのか
  82. 源氏物語にあらわれた宿世観
  83. 源氏物語に登場する僧侶
  84. 『源氏物語』の主役の条件

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