62 源氏物語に及ぼした伊勢物語の影響
『源氏物語の謎』増淵勝一 著 - 国研ウェブ文庫
『源氏物語』に影響した先行文学は、『和泉式部日記』『蜻蛉日記』『竹取物語』『うつほ物語』『落窪物語』『住吉物語』『交野少将物語』(散逸)『唐守』(同上)等多数に及びますが、その中でも断然『源氏物語』の源泉となっているのが『伊勢物語』です。
『伊勢物語』は『竹取物語』と共に物語の中では最も古いものの一つで、主人公とされる在原業平の亡くなった元慶四年(880)以前に原本は成立していたようです。定家本で百二十五段から成り、昔男(業平)の元服から終焉に至るまでを、各段和歌を中心に話が展述される歌物語です。
『源氏物語』の主人公光源氏のイメージは「体貌閑麗」「善く和歌を作る」と評されて、多くの女性とかかわった業平像に由来します。源氏の活躍は中将のときから始まりますが、業平は最終の官職が中将でした。業平の愛した二条の后高子は『伊勢物語』中の代表的なヒロインでしたが、叔母の五条の后順子邸の西の対に住んでいました。『源氏物語』のヒロイン紫の上も二条院の西の対に住んでいました。
『伊勢物語』の初段は、昔男が奈良の京春日野の里で、美人姉妹を見つけて、「春日野の若紫の摺り衣しのぶの乱れ限り知られず」の歌をよみかけるという話ですが、この歌は「帚木」の巻の冒頭に引かれて、源氏の元服直後からのしのび歩きをそれとなく暗示しています。さらに「若紫」巻での源氏の北山行への影響があり、巻名もこの業平歌によっているのです。
このような『伊勢物語』による『源氏物語』への影響は多数の巻々に見られます(岡一男博士『源氏物語事典』64年刊参照)。
なお、業平は五十六歳で亡くなっています。『源氏物語』は源氏五十二歳の年末までが「幻」巻。その後おそらくは業平にならって五十六歳ぐらいで源氏も亡くなったと紫式部は示唆しているようです。
『源氏物語の謎』増淵勝一 著 目次
- 『源氏物語』はいつ書かれたか
- 『源氏物語』はどんな物語か
- 『源氏物語』の巻名はだれがつけたものか
- 『源氏物語』の時代設定はいつか
- 光源氏に愛された女性の中で、一番しあわせだったのはだれか
- 『源氏物語』の伝本にはどんなものがあるか
- 『源氏物語』の三大滑稽人物とはだれか?
- 『源氏物語』という書名ははじめから付けられていたものか?
- 『源氏物語』の「もののあはれ」とは何か?
- 紫式部の名の由来は?
- 光源氏はなぜ義母の藤壺を思慕したのか。
- 「桐壺」とは何か
- 「雨夜の品定め」とは何か
- 「帚木」とは何か
- 『源氏物語』の三箇(さんか)の大事(だいじ)とは何か
- 紫式部堕獄(だごく)説とは何か
- 『源氏物語』は古人にどう評価されたか。
- 紫式部はどういう生涯を送ったか
- 登場人物の名づけ親は誰か
- 源氏物語の文章の「すべらかし」調とは?
- 光源氏の「二条院」はどこにあったか
- 源氏物語に描かれた結婚形態とは
- 「紅葉賀(もみじのが)」とは何か
- 源氏物語に近親結婚が多いのはなぜか
- 結婚を拒否する女性
- 光源氏はどんな容貌・容姿であったか
- 源氏物語の遺跡にはどんなものがあるか
- 源氏物語の構成はどうなっているか
- 乳母(めのと)とは何か
- 源氏物語には何首の和歌があるか。
- 「総角」巻の巻名の由来は何か。
- 光源氏はなぜ須磨に籠居したのか。
- 「夢浮橋」の巻名の由来は何か
- 光源氏の経済的基盤はどこにあったか(1)
- 弘徽殿の大后のモデルは誰か
- 桐壺の更衣のモデルは誰か
- 紫式部観音化身説とは?
- 光源氏の経済的基盤はどこにあったか(2)
- 源氏物語』の登場人物は何人ぐらいいるか?
- 『源氏物語』に登場する敵役(かたきやく)
- 主な女君たちの命日
- 平安貴族の住居はどんなものであったか
- 宇治の八の宮は二人の姫君を残してなぜ出家を目指すことができたか
- 源氏物語が長い間読まれつづけているのはなぜか
- 『源氏物語』の最も古い注釈書とは
- 「かがやく日の宮」巻とは何か
- 「澪標」の巻名の由来は?
- 『源氏物語』に描かれた病気
- 紫式部の教養
- 古注の集大成―『河海抄』
- 世界文学史上の『源氏物語』
- 紫式部の学問観
- 光源氏薨後の夫人たちの生活は?
- 物怪(もののけ)とは何か
- 「宿木(やどりぎ)」とは?
- 女君たちの魅力は?
- 六条院とはどんな邸宅であったか
- 女三の宮と柏木との関係を知った光源氏はどう対処したか?
- 紫式部の住居はどこにあったか?
- 作り物語の『源氏物語』に実在の人物が登場するのはなぜか?
- 紫式部と藤原道長の関係について
- 源氏物語に及ぼした伊勢物語の影響
- 「鈴虫」の巻名の由来は?
- 「侍従」という女房の役割は何か
- 光源氏が一番美人だと認めていた女君は誰か
- 紫式部の墓はどこにあるか
- 「雲隠」の巻は原作にあったのか
- 男君たちの魅力は
- 源氏物語に見える音楽
- 年立ての矛盾
- 各巻のあらすじ(1)桐壺・帚木
- 女君を選ぶとしたら?
- 各巻のあらすじ(2)空蝉・夕顔
- 『源氏物語』の続編(1)―『山路の露』―
- 各巻のあらすじ(3)若紫・末摘花
- 『源氏物語奥入(おくいり)』とは
- 源氏香とは何か
- 平安時代の風呂はどんなものであったか
- 牛車(ぎっしゃ)とは何か
- 貴族の日常生活はどういうものであったか
- 源氏物語にはなぜ大災害が描かれていないのか
- 源氏物語にあらわれた宿世観
- 源氏物語に登場する僧侶
- 『源氏物語』の主役の条件
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