38 光源氏の経済的基盤はどこにあったか(2)

『源氏物語の謎』増淵勝一 著 - 国研ウェブ文庫

光源氏に限らず、夕霧でも薫でも、給料を支給されたとか、金銭のやり取りをしたとかといった記事は、『源氏物語』のどこにも書かれていません。これは宮仕えをする家司や女房たちについても言えることで、一体当時はどういう経済的な仕組みになっていたのでしょうか。

それは一言でいえば、荘園経済であったということになります。たとえば光源氏は須磨に一時身を隠しますが、その瀟洒(しょうしゃ)な住居は、「近き所々の司(つかさ)召して、然るべきことどもなど、良清の朝臣、親しき家司にて、仰せ行な」って、あっという間に出来上がるのです(「須磨」)。

夕霧が落葉の宮(柏木未亡人)の母君である一条御息所の葬儀の援助をしたときは、「近き御庄の人々召し仰せて、さるべきことども仕うまつるべく、掟(お)きて定めて出で給」うたともあります(「夕霧」)。

薫は宇治の八の宮邸の後事を託されると、「このわたり近き御庄どもなどに、そのことどもも宣ひあづけなど、まめやかなること(生活上の手当て)どもをさへ定め置き給」うたとあります(「早蕨」)。

『源氏物語』には、二十例ほどの庄園の記事があります。庄(荘)園とは貴族の私的な所有地です。当然そこで働く農民たちも、庄園の持ち主、つまり貴族たちの財産となります。

庄園からは米や布や木材や炭など、あらゆる生活物資を徴集することができます。しかも光源氏や夕霧や薫ら上流貴族の庄園では税金を免除されることが少なくありません。したがって庄園は彼らの金庫であり、財布でもあります。

光源氏らが私的に遠出をする所は、みな近くに自分の庄園がある土地と決まっています。その庄園から衣食住の補給を受け、時には葬儀などの行事に至るまで、全ての支援が受けられるので、お金はほとんど必要ないわけです。

作成日:2013年11月9日

『源氏物語の謎』増淵勝一 著 目次

  1. 『源氏物語』はいつ書かれたか
  2. 『源氏物語』はどんな物語か
  3. 『源氏物語』の巻名はだれがつけたものか
  4. 『源氏物語』の時代設定はいつか
  5. 光源氏に愛された女性の中で、一番しあわせだったのはだれか
  6. 『源氏物語』の伝本にはどんなものがあるか
  7. 『源氏物語』の三大滑稽人物とはだれか?
  8. 『源氏物語』という書名ははじめから付けられていたものか?
  9. 『源氏物語』の「もののあはれ」とは何か?
  10. 紫式部の名の由来は?
  11. 光源氏はなぜ義母の藤壺を思慕したのか。
  12. 「桐壺」とは何か
  13. 「雨夜の品定め」とは何か
  14. 「帚木」とは何か
  15. 『源氏物語』の三箇(さんか)の大事(だいじ)とは何か
  16. 紫式部堕獄(だごく)説とは何か
  17. 『源氏物語』は古人にどう評価されたか。
  18. 紫式部はどういう生涯を送ったか
  19. 登場人物の名づけ親は誰か
  20. 源氏物語の文章の「すべらかし」調とは?
  21. 光源氏の「二条院」はどこにあったか
  22. 源氏物語に描かれた結婚形態とは
  23. 「紅葉賀(もみじのが)」とは何か
  24. 源氏物語に近親結婚が多いのはなぜか
  25. 結婚を拒否する女性
  26. 光源氏はどんな容貌・容姿であったか
  27. 源氏物語の遺跡にはどんなものがあるか
  28. 源氏物語の構成はどうなっているか
  29. 乳母(めのと)とは何か
  30. 源氏物語には何首の和歌があるか。
  31. 「総角」巻の巻名の由来は何か。
  32. 光源氏はなぜ須磨に籠居したのか。
  33. 「夢浮橋」の巻名の由来は何か
  34. 光源氏の経済的基盤はどこにあったか(1)
  35. 弘徽殿の大后のモデルは誰か
  36. 桐壺の更衣のモデルは誰か
  37. 紫式部観音化身説とは?
  38. 光源氏の経済的基盤はどこにあったか(2)
  39. 源氏物語』の登場人物は何人ぐらいいるか?
  40. 『源氏物語』に登場する敵役(かたきやく)
  41. 主な女君たちの命日
  42. 平安貴族の住居はどんなものであったか
  43. 宇治の八の宮は二人の姫君を残してなぜ出家を目指すことができたか
  44. 源氏物語が長い間読まれつづけているのはなぜか
  45. 『源氏物語』の最も古い注釈書とは
  46. 「かがやく日の宮」巻とは何か
  47. 「澪標」の巻名の由来は?
  48. 『源氏物語』に描かれた病気
  49. 紫式部の教養
  50. 古注の集大成―『河海抄』
  51. 世界文学史上の『源氏物語』
  52. 紫式部の学問観
  53. 光源氏薨後の夫人たちの生活は?
  54. 物怪(もののけ)とは何か
  55. 「宿木(やどりぎ)」とは?
  56. 女君たちの魅力は?
  57. 六条院とはどんな邸宅であったか
  58. 女三の宮と柏木との関係を知った光源氏はどう対処したか?
  59. 紫式部の住居はどこにあったか?
  60. 作り物語の『源氏物語』に実在の人物が登場するのはなぜか?
  61. 紫式部と藤原道長の関係について
  62. 源氏物語に及ぼした伊勢物語の影響
  63. 「鈴虫」の巻名の由来は?
  64. 「侍従」という女房の役割は何か
  65. 光源氏が一番美人だと認めていた女君は誰か
  66. 紫式部の墓はどこにあるか
  67. 「雲隠」の巻は原作にあったのか
  68. 男君たちの魅力は
  69. 源氏物語に見える音楽
  70. 年立ての矛盾
  71. 各巻のあらすじ(1)桐壺・帚木
  72. 女君を選ぶとしたら?
  73. 各巻のあらすじ(2)空蝉・夕顔
  74. 『源氏物語』の続編(1)―『山路の露』―
  75. 各巻のあらすじ(3)若紫・末摘花
  76. 『源氏物語奥入(おくいり)』とは
  77. 源氏香とは何か
  78. 平安時代の風呂はどんなものであったか
  79. 牛車(ぎっしゃ)とは何か
  80. 貴族の日常生活はどういうものであったか
  81. 源氏物語にはなぜ大災害が描かれていないのか
  82. 源氏物語にあらわれた宿世観
  83. 源氏物語に登場する僧侶
  84. 『源氏物語』の主役の条件

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