46「かがやく日の宮」巻とは何か

『源氏物語の謎』増淵勝一 著 - 国研ウェブ文庫

藤原定家の『源氏物語』の注釈書である『奥入(おくいり)』に、「空蝉」巻は、

 二の並びとあれど、帚木のつぎ也。並びとは見えず。
 一説には、
  二かがやく日の宮(この巻なし)
   並びの一帚木(空蝉は奥に籠めたり)
      二夕顔
とあるのが初見です。

「並び」とは、本筋の巻に対して、時間的に副筋の巻が平行していることを言います。したがってこの『奥入』の文章は、前半は「空蝉」の巻は、二(の「帚木」)の巻の「並び」というが、実は「帚木」の巻の次巻であるということで、これは現在の『源氏物語』の巻順を容認した説であります。

つぎに一説として、二の巻は「かがやく日の宮」であり、その並びの一が「帚木」巻で、「空蝉」は「帚木」巻内に書きこめられていて、一巻をなしていなかったということ。「かがやく日の宮」の並びの二巻目は「夕顔」であったということを伝えています。

つまり『奥入』の一説によると、『源氏物語』は、一「桐壺」、二「かがやく日の宮」、三「帚木」、四「夕顔」という構成であったということになります。

そこで学者の中には、たとえば「かがやく日の宮」巻の存在を肯定し、そこでは女主人公藤壺を特に印象的に描き、六条御息所や朝顔・花散里らへの源氏の恋物語や正妻葵の上の冷ややかな情態も語られていた等と説く向きもありました。

もっとも、『奥入』自体に「かがやく日の宮」は「この巻なし」と注記されています。それに、「壺」「帚木」、「空蝉」「夕顔」、「若紫」「末摘花」…と二巻一対の巻名で構成されている中に、「かがやく日の宮」という、長ったらしい名称の巻が入っていたとは到底考えられません。「かがやく日の宮」の巻は『奥入』の注記のように、はじめから存在していなかったと考えてよいでしょう。

作成日:2014年3月8日

『源氏物語の謎』増淵勝一 著 目次

  1. 『源氏物語』はいつ書かれたか
  2. 『源氏物語』はどんな物語か
  3. 『源氏物語』の巻名はだれがつけたものか
  4. 『源氏物語』の時代設定はいつか
  5. 光源氏に愛された女性の中で、一番しあわせだったのはだれか
  6. 『源氏物語』の伝本にはどんなものがあるか
  7. 『源氏物語』の三大滑稽人物とはだれか?
  8. 『源氏物語』という書名ははじめから付けられていたものか?
  9. 『源氏物語』の「もののあはれ」とは何か?
  10. 紫式部の名の由来は?
  11. 光源氏はなぜ義母の藤壺を思慕したのか。
  12. 「桐壺」とは何か
  13. 「雨夜の品定め」とは何か
  14. 「帚木」とは何か
  15. 『源氏物語』の三箇(さんか)の大事(だいじ)とは何か
  16. 紫式部堕獄(だごく)説とは何か
  17. 『源氏物語』は古人にどう評価されたか。
  18. 紫式部はどういう生涯を送ったか
  19. 登場人物の名づけ親は誰か
  20. 源氏物語の文章の「すべらかし」調とは?
  21. 光源氏の「二条院」はどこにあったか
  22. 源氏物語に描かれた結婚形態とは
  23. 「紅葉賀(もみじのが)」とは何か
  24. 源氏物語に近親結婚が多いのはなぜか
  25. 結婚を拒否する女性
  26. 光源氏はどんな容貌・容姿であったか
  27. 源氏物語の遺跡にはどんなものがあるか
  28. 源氏物語の構成はどうなっているか
  29. 乳母(めのと)とは何か
  30. 源氏物語には何首の和歌があるか。
  31. 「総角」巻の巻名の由来は何か。
  32. 光源氏はなぜ須磨に籠居したのか。
  33. 「夢浮橋」の巻名の由来は何か
  34. 光源氏の経済的基盤はどこにあったか(1)
  35. 弘徽殿の大后のモデルは誰か
  36. 桐壺の更衣のモデルは誰か
  37. 紫式部観音化身説とは?
  38. 光源氏の経済的基盤はどこにあったか(2)
  39. 源氏物語』の登場人物は何人ぐらいいるか?
  40. 『源氏物語』に登場する敵役(かたきやく)
  41. 主な女君たちの命日
  42. 平安貴族の住居はどんなものであったか
  43. 宇治の八の宮は二人の姫君を残してなぜ出家を目指すことができたか
  44. 源氏物語が長い間読まれつづけているのはなぜか
  45. 『源氏物語』の最も古い注釈書とは
  46. 「かがやく日の宮」巻とは何か
  47. 「澪標」の巻名の由来は?
  48. 『源氏物語』に描かれた病気
  49. 紫式部の教養
  50. 古注の集大成―『河海抄』
  51. 世界文学史上の『源氏物語』
  52. 紫式部の学問観
  53. 光源氏薨後の夫人たちの生活は?
  54. 物怪(もののけ)とは何か
  55. 「宿木(やどりぎ)」とは?
  56. 女君たちの魅力は?
  57. 六条院とはどんな邸宅であったか
  58. 女三の宮と柏木との関係を知った光源氏はどう対処したか?
  59. 紫式部の住居はどこにあったか?
  60. 作り物語の『源氏物語』に実在の人物が登場するのはなぜか?
  61. 紫式部と藤原道長の関係について
  62. 源氏物語に及ぼした伊勢物語の影響
  63. 「鈴虫」の巻名の由来は?
  64. 「侍従」という女房の役割は何か
  65. 光源氏が一番美人だと認めていた女君は誰か
  66. 紫式部の墓はどこにあるか
  67. 「雲隠」の巻は原作にあったのか
  68. 男君たちの魅力は
  69. 源氏物語に見える音楽
  70. 年立ての矛盾
  71. 各巻のあらすじ(1)桐壺・帚木
  72. 女君を選ぶとしたら?
  73. 各巻のあらすじ(2)空蝉・夕顔
  74. 『源氏物語』の続編(1)―『山路の露』―
  75. 各巻のあらすじ(3)若紫・末摘花
  76. 『源氏物語奥入(おくいり)』とは
  77. 源氏香とは何か
  78. 平安時代の風呂はどんなものであったか
  79. 牛車(ぎっしゃ)とは何か
  80. 貴族の日常生活はどういうものであったか
  81. 源氏物語にはなぜ大災害が描かれていないのか
  82. 源氏物語にあらわれた宿世観
  83. 源氏物語に登場する僧侶
  84. 『源氏物語』の主役の条件

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