23 「紅葉賀(もみじのが)」とは何か

『源氏物語の謎』増淵勝一 著 - 国研ウェブ文庫

『源氏物語』第七帖は「紅葉賀」の巻と呼ばれています。これは退位された天皇のお住居の「朱雀院(すざくいん)」で、十月の紅葉の盛りに年の御賀があるところからの命名です。本文に「試みの日かく尽しつれば、紅葉の蔭やさうざうしく」とあります。

当時の貴族は四十歳から十年目ごとに、四十(よそじ)の賀・五十(いそじ)の賀などといって、長寿を祝う会が催されました。その年齢の数だけのお寺、すなわち四十か寺・五十か寺などに誦経や祈祷をさせ、またしかるべき場所で、楽人を召し、管絃の遊びなどを行なって、お祝いをしました。それが紅葉の季節に行なわれたので、「紅葉賀」と称するのです。

朱雀院には隠退した天皇がいたはずです。その先皇は現在の天皇である桐壺帝の父帝か兄帝であったと推測されます。桐壺帝には弘徽殿女御との間に一男(のちの朱雀院)と二女がおり、そののち桐壺の更衣が生んだ光源氏以下、他のお后との間に生まれた蛍兵部卿宮とか帥宮(「蛍」巻参照)とか宇治八宮がおり、また藤壺の宮との子とされる冷泉院は十の宮とされています。

今、仮に桐壺帝が二十歳余りで長子ののちの朱雀院をもうけたとすると、「紅葉賀」巻では、四十一~四十二歳。朱雀院は二十一~二十二歳。光源氏は三歳年下で十八~十九歳となります。そこで「紅葉賀」の祝福を受けた先皇は、六十賀の祝福を受けたのでしょう。そうすると桐壺帝とは十八~十九歳の差となりますので、この先帝は桐壺帝の父君であったことになります。

この祝賀の折に源氏は青海波を舞って人々を感動させますが、年の賀の際にはしばしば直系の孫児が舞いを舞うのが習わしでした。やはり源氏の祖父、つまり桐壺院の父帝の年の賀であったものと推測されます。

作成日:2013年4月9日

『源氏物語の謎』増淵勝一 著 目次

  1. 『源氏物語』はいつ書かれたか
  2. 『源氏物語』はどんな物語か
  3. 『源氏物語』の巻名はだれがつけたものか
  4. 『源氏物語』の時代設定はいつか
  5. 光源氏に愛された女性の中で、一番しあわせだったのはだれか
  6. 『源氏物語』の伝本にはどんなものがあるか
  7. 『源氏物語』の三大滑稽人物とはだれか?
  8. 『源氏物語』という書名ははじめから付けられていたものか?
  9. 『源氏物語』の「もののあはれ」とは何か?
  10. 紫式部の名の由来は?
  11. 光源氏はなぜ義母の藤壺を思慕したのか。
  12. 「桐壺」とは何か
  13. 「雨夜の品定め」とは何か
  14. 「帚木」とは何か
  15. 『源氏物語』の三箇(さんか)の大事(だいじ)とは何か
  16. 紫式部堕獄(だごく)説とは何か
  17. 『源氏物語』は古人にどう評価されたか。
  18. 紫式部はどういう生涯を送ったか
  19. 登場人物の名づけ親は誰か
  20. 源氏物語の文章の「すべらかし」調とは?
  21. 光源氏の「二条院」はどこにあったか
  22. 源氏物語に描かれた結婚形態とは
  23. 「紅葉賀(もみじのが)」とは何か
  24. 源氏物語に近親結婚が多いのはなぜか
  25. 結婚を拒否する女性
  26. 光源氏はどんな容貌・容姿であったか
  27. 源氏物語の遺跡にはどんなものがあるか
  28. 源氏物語の構成はどうなっているか
  29. 乳母(めのと)とは何か
  30. 源氏物語には何首の和歌があるか。
  31. 「総角」巻の巻名の由来は何か。
  32. 光源氏はなぜ須磨に籠居したのか。
  33. 「夢浮橋」の巻名の由来は何か
  34. 光源氏の経済的基盤はどこにあったか(1)
  35. 弘徽殿の大后のモデルは誰か
  36. 桐壺の更衣のモデルは誰か
  37. 紫式部観音化身説とは?
  38. 光源氏の経済的基盤はどこにあったか(2)
  39. 源氏物語』の登場人物は何人ぐらいいるか?
  40. 『源氏物語』に登場する敵役(かたきやく)
  41. 主な女君たちの命日
  42. 平安貴族の住居はどんなものであったか
  43. 宇治の八の宮は二人の姫君を残してなぜ出家を目指すことができたか
  44. 源氏物語が長い間読まれつづけているのはなぜか
  45. 『源氏物語』の最も古い注釈書とは
  46. 「かがやく日の宮」巻とは何か
  47. 「澪標」の巻名の由来は?
  48. 『源氏物語』に描かれた病気
  49. 紫式部の教養
  50. 古注の集大成―『河海抄』
  51. 世界文学史上の『源氏物語』
  52. 紫式部の学問観
  53. 光源氏薨後の夫人たちの生活は?
  54. 物怪(もののけ)とは何か
  55. 「宿木(やどりぎ)」とは?
  56. 女君たちの魅力は?
  57. 六条院とはどんな邸宅であったか
  58. 女三の宮と柏木との関係を知った光源氏はどう対処したか?
  59. 紫式部の住居はどこにあったか?
  60. 作り物語の『源氏物語』に実在の人物が登場するのはなぜか?
  61. 紫式部と藤原道長の関係について
  62. 源氏物語に及ぼした伊勢物語の影響
  63. 「鈴虫」の巻名の由来は?
  64. 「侍従」という女房の役割は何か
  65. 光源氏が一番美人だと認めていた女君は誰か
  66. 紫式部の墓はどこにあるか
  67. 「雲隠」の巻は原作にあったのか
  68. 男君たちの魅力は
  69. 源氏物語に見える音楽
  70. 年立ての矛盾
  71. 各巻のあらすじ(1)桐壺・帚木
  72. 女君を選ぶとしたら?
  73. 各巻のあらすじ(2)空蝉・夕顔
  74. 『源氏物語』の続編(1)―『山路の露』―
  75. 各巻のあらすじ(3)若紫・末摘花
  76. 『源氏物語奥入(おくいり)』とは
  77. 源氏香とは何か
  78. 平安時代の風呂はどんなものであったか
  79. 牛車(ぎっしゃ)とは何か
  80. 貴族の日常生活はどういうものであったか
  81. 源氏物語にはなぜ大災害が描かれていないのか
  82. 源氏物語にあらわれた宿世観
  83. 源氏物語に登場する僧侶
  84. 『源氏物語』の主役の条件

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