25 結婚を拒否する女性

『源氏物語の謎』増淵勝一 著 - 国研ウェブ文庫

『源氏物語』には光源氏や夕霧や匂宮の求愛を受け入れる女性がいる一方、これをかたくなに拒否して、独身を貫き通す女性も散見します。たとえば、正編では朝顔や、「宇治十帖」の故八の宮の長女である大君らであり、また一度は強引な源氏に身を許したものの、以後は源氏の求愛を拒みつづけた空蝉などもいます。

空蝉は故中納言の娘で、父の死後老受領の伊予介(いよのすけ)の後妻になっていました。源氏に好意は抱いてはいたものの、身分の差に加えて、年上であったこと、それに容姿に自信のなかったことなどで、源氏の求愛を拒みました。

大君は八の宮の逝去後、薫の求愛を受けましたが、没落した宮家の姫君であり、また薫よりも年上であり、さらに妹の中の君より容姿は劣っていました。大君は中の君を薫に勧めたのですが、自分が中の君の母親がわりになって世話をしたい。しかし自分には母親がおらず、何の相談もできず、助けも得られないので、結婚は無理だとあきらめたようです。同様のことは空蝉も、未婚で両親の揃った身であれば源氏の求愛を受け入れられたかも知れないと言っています。女性の結婚には母親の存在が大切であったことがわかります。

朝顔は源氏のいとこであり、父の式部卿宮も二人の結婚に賛成していました。朝顔は源氏の求愛を「帚木」の巻以来ずっと受けて来ましたが、源氏の浮気な性格に不信を抱いていたので、消極的になったようです。実は大君も匂宮の中の君に対する夜離れがつづくのを見て、自分はそうした苦労をしたくないと、いよいよ独身で通す気持ちになりました。

内親王は一般に独身で生涯を終ることが多く、斎院であった朝顔や八の宮の娘大君には、そういう貴種ゆえのプライドから来る結婚拒否の思いもあったようです。身分・年齢・容姿、それにプライド等が結婚拒否の要因なのですね。

作成日:2013年5月14日

『源氏物語の謎』増淵勝一 著 目次

  1. 『源氏物語』はいつ書かれたか
  2. 『源氏物語』はどんな物語か
  3. 『源氏物語』の巻名はだれがつけたものか
  4. 『源氏物語』の時代設定はいつか
  5. 光源氏に愛された女性の中で、一番しあわせだったのはだれか
  6. 『源氏物語』の伝本にはどんなものがあるか
  7. 『源氏物語』の三大滑稽人物とはだれか?
  8. 『源氏物語』という書名ははじめから付けられていたものか?
  9. 『源氏物語』の「もののあはれ」とは何か?
  10. 紫式部の名の由来は?
  11. 光源氏はなぜ義母の藤壺を思慕したのか。
  12. 「桐壺」とは何か
  13. 「雨夜の品定め」とは何か
  14. 「帚木」とは何か
  15. 『源氏物語』の三箇(さんか)の大事(だいじ)とは何か
  16. 紫式部堕獄(だごく)説とは何か
  17. 『源氏物語』は古人にどう評価されたか。
  18. 紫式部はどういう生涯を送ったか
  19. 登場人物の名づけ親は誰か
  20. 源氏物語の文章の「すべらかし」調とは?
  21. 光源氏の「二条院」はどこにあったか
  22. 源氏物語に描かれた結婚形態とは
  23. 「紅葉賀(もみじのが)」とは何か
  24. 源氏物語に近親結婚が多いのはなぜか
  25. 結婚を拒否する女性
  26. 光源氏はどんな容貌・容姿であったか
  27. 源氏物語の遺跡にはどんなものがあるか
  28. 源氏物語の構成はどうなっているか
  29. 乳母(めのと)とは何か
  30. 源氏物語には何首の和歌があるか。
  31. 「総角」巻の巻名の由来は何か。
  32. 光源氏はなぜ須磨に籠居したのか。
  33. 「夢浮橋」の巻名の由来は何か
  34. 光源氏の経済的基盤はどこにあったか(1)
  35. 弘徽殿の大后のモデルは誰か
  36. 桐壺の更衣のモデルは誰か
  37. 紫式部観音化身説とは?
  38. 光源氏の経済的基盤はどこにあったか(2)
  39. 源氏物語』の登場人物は何人ぐらいいるか?
  40. 『源氏物語』に登場する敵役(かたきやく)
  41. 主な女君たちの命日
  42. 平安貴族の住居はどんなものであったか
  43. 宇治の八の宮は二人の姫君を残してなぜ出家を目指すことができたか
  44. 源氏物語が長い間読まれつづけているのはなぜか
  45. 『源氏物語』の最も古い注釈書とは
  46. 「かがやく日の宮」巻とは何か
  47. 「澪標」の巻名の由来は?
  48. 『源氏物語』に描かれた病気
  49. 紫式部の教養
  50. 古注の集大成―『河海抄』
  51. 世界文学史上の『源氏物語』
  52. 紫式部の学問観
  53. 光源氏薨後の夫人たちの生活は?
  54. 物怪(もののけ)とは何か
  55. 「宿木(やどりぎ)」とは?
  56. 女君たちの魅力は?
  57. 六条院とはどんな邸宅であったか
  58. 女三の宮と柏木との関係を知った光源氏はどう対処したか?
  59. 紫式部の住居はどこにあったか?
  60. 作り物語の『源氏物語』に実在の人物が登場するのはなぜか?
  61. 紫式部と藤原道長の関係について
  62. 源氏物語に及ぼした伊勢物語の影響
  63. 「鈴虫」の巻名の由来は?
  64. 「侍従」という女房の役割は何か
  65. 光源氏が一番美人だと認めていた女君は誰か
  66. 紫式部の墓はどこにあるか
  67. 「雲隠」の巻は原作にあったのか
  68. 男君たちの魅力は
  69. 源氏物語に見える音楽
  70. 年立ての矛盾
  71. 各巻のあらすじ(1)桐壺・帚木
  72. 女君を選ぶとしたら?
  73. 各巻のあらすじ(2)空蝉・夕顔
  74. 『源氏物語』の続編(1)―『山路の露』―
  75. 各巻のあらすじ(3)若紫・末摘花
  76. 『源氏物語奥入(おくいり)』とは
  77. 源氏香とは何か
  78. 平安時代の風呂はどんなものであったか
  79. 牛車(ぎっしゃ)とは何か
  80. 貴族の日常生活はどういうものであったか
  81. 源氏物語にはなぜ大災害が描かれていないのか
  82. 源氏物語にあらわれた宿世観
  83. 源氏物語に登場する僧侶
  84. 『源氏物語』の主役の条件

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