64 「侍従」という女房の役割は何か

『源氏物語の謎』増淵勝一 著 - 国研ウェブ文庫

『源氏物語』の中には、「侍従」とか「小侍従」と呼ばれる女房が何人か出て来ます。

  1. (1)侍従の君  末摘花の乳母子。忠実に仕えたが、のち末摘花の叔母の夫である太宰大弐の甥と結婚して九州へ下った(末摘花・蓬生)。
  2. (2)小侍従  雲井雁の乳母子。雲井雁の許へ夕霧が忍んで来て、戸外から呼びかけたが、出て来なかった(少女・橋姫)。
  3. (3)小侍従  女三の宮の乳母の侍従の乳母の娘。柏木を女三の宮の許に導いた(若菜下)。
  4. (4)侍従の君  浮舟の女房。薫が浮舟を宇治へ伴うときに同伴。匂宮と浮舟の仲を取り持ち、匂宮に好意を抱く。浮舟失踪後は明石中宮に仕えた(東屋・浮舟・蜻蛉)。
  5. (5)侍従の君  小野の妹尼君の女房。浮舟が身を寄せてからは浮舟の係となった(手習)。
  6. (6)侍従の内侍  平典侍らと絵合に出席(絵合)。

「侍従」というのは、本来中務省に属し、天皇に近侍して、「遺(のこ)りたるを拾ひ、欠けたるを補ふ官」で、もとは定員八名。そのうち三人は少納言が兼任し、五人は君達が任命されます(『百寮訓要抄』『職原鈔』)。『源氏物語』には、式部卿の宮の子(真木柱)・蛍兵部卿の宮の子(梅枝)・蜻蛉式部卿の宮の子(蜻蛉)・夕霧の四男(侍従の宰相、椎本)らの侍従が登場しています。

ところで、女房名は父兄や夫や家の官職によって付けられることが一般です。たとえば紫式部(父為時が式部丞)・和泉式部(夫道貞が和泉守・式部は父の大江匡致の旧官名によるか)などの例でわかると思います。

そこで、女房名の侍従と小侍従ですが、(1)~(3)の例によると、乳母子の女房名とされることが多かったのではないかと思います。役柄は、男性官吏の場合と同じで、主君に近侍して、その遺漏するところを補うようにということで、「侍従」と付けられたのでしょう。

作成日:2014年12月4日

『源氏物語の謎』増淵勝一 著 目次

  1. 『源氏物語』はいつ書かれたか
  2. 『源氏物語』はどんな物語か
  3. 『源氏物語』の巻名はだれがつけたものか
  4. 『源氏物語』の時代設定はいつか
  5. 光源氏に愛された女性の中で、一番しあわせだったのはだれか
  6. 『源氏物語』の伝本にはどんなものがあるか
  7. 『源氏物語』の三大滑稽人物とはだれか?
  8. 『源氏物語』という書名ははじめから付けられていたものか?
  9. 『源氏物語』の「もののあはれ」とは何か?
  10. 紫式部の名の由来は?
  11. 光源氏はなぜ義母の藤壺を思慕したのか。
  12. 「桐壺」とは何か
  13. 「雨夜の品定め」とは何か
  14. 「帚木」とは何か
  15. 『源氏物語』の三箇(さんか)の大事(だいじ)とは何か
  16. 紫式部堕獄(だごく)説とは何か
  17. 『源氏物語』は古人にどう評価されたか。
  18. 紫式部はどういう生涯を送ったか
  19. 登場人物の名づけ親は誰か
  20. 源氏物語の文章の「すべらかし」調とは?
  21. 光源氏の「二条院」はどこにあったか
  22. 源氏物語に描かれた結婚形態とは
  23. 「紅葉賀(もみじのが)」とは何か
  24. 源氏物語に近親結婚が多いのはなぜか
  25. 結婚を拒否する女性
  26. 光源氏はどんな容貌・容姿であったか
  27. 源氏物語の遺跡にはどんなものがあるか
  28. 源氏物語の構成はどうなっているか
  29. 乳母(めのと)とは何か
  30. 源氏物語には何首の和歌があるか。
  31. 「総角」巻の巻名の由来は何か。
  32. 光源氏はなぜ須磨に籠居したのか。
  33. 「夢浮橋」の巻名の由来は何か
  34. 光源氏の経済的基盤はどこにあったか(1)
  35. 弘徽殿の大后のモデルは誰か
  36. 桐壺の更衣のモデルは誰か
  37. 紫式部観音化身説とは?
  38. 光源氏の経済的基盤はどこにあったか(2)
  39. 源氏物語』の登場人物は何人ぐらいいるか?
  40. 『源氏物語』に登場する敵役(かたきやく)
  41. 主な女君たちの命日
  42. 平安貴族の住居はどんなものであったか
  43. 宇治の八の宮は二人の姫君を残してなぜ出家を目指すことができたか
  44. 源氏物語が長い間読まれつづけているのはなぜか
  45. 『源氏物語』の最も古い注釈書とは
  46. 「かがやく日の宮」巻とは何か
  47. 「澪標」の巻名の由来は?
  48. 『源氏物語』に描かれた病気
  49. 紫式部の教養
  50. 古注の集大成―『河海抄』
  51. 世界文学史上の『源氏物語』
  52. 紫式部の学問観
  53. 光源氏薨後の夫人たちの生活は?
  54. 物怪(もののけ)とは何か
  55. 「宿木(やどりぎ)」とは?
  56. 女君たちの魅力は?
  57. 六条院とはどんな邸宅であったか
  58. 女三の宮と柏木との関係を知った光源氏はどう対処したか?
  59. 紫式部の住居はどこにあったか?
  60. 作り物語の『源氏物語』に実在の人物が登場するのはなぜか?
  61. 紫式部と藤原道長の関係について
  62. 源氏物語に及ぼした伊勢物語の影響
  63. 「鈴虫」の巻名の由来は?
  64. 「侍従」という女房の役割は何か
  65. 光源氏が一番美人だと認めていた女君は誰か
  66. 紫式部の墓はどこにあるか
  67. 「雲隠」の巻は原作にあったのか
  68. 男君たちの魅力は
  69. 源氏物語に見える音楽
  70. 年立ての矛盾
  71. 各巻のあらすじ(1)桐壺・帚木
  72. 女君を選ぶとしたら?
  73. 各巻のあらすじ(2)空蝉・夕顔
  74. 『源氏物語』の続編(1)―『山路の露』―
  75. 各巻のあらすじ(3)若紫・末摘花
  76. 『源氏物語奥入(おくいり)』とは
  77. 源氏香とは何か
  78. 平安時代の風呂はどんなものであったか
  79. 牛車(ぎっしゃ)とは何か
  80. 貴族の日常生活はどういうものであったか
  81. 源氏物語にはなぜ大災害が描かれていないのか
  82. 源氏物語にあらわれた宿世観
  83. 源氏物語に登場する僧侶
  84. 『源氏物語』の主役の条件

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