24 源氏物語に近親結婚が多いのはなぜか

『源氏物語の謎』増淵勝一 著 - 国研ウェブ文庫

たとえば光源氏と葵の上の結婚では、桐壺帝の二男である光源氏と、桐壺帝妹の大宮の生んだ葵の上とはいとこの間柄で結婚したことになります。源氏の子の夕霧は母は葵の上。その妻の雲井雁は葵の上の弟の頭中将(のちの内大臣・太政大臣)の娘ですから、二人はやはりいとこの間柄であります。さらに夕霧の娘の六の君は、夕霧の妹の明石中宮の三男の匂宮と結婚しますが、これもいとこの間柄です。源氏も夕霧も夕霧娘の六の君も結婚相手はすべていとこでした。

弘徽殿大后と桐壺帝の間に生まれた朱雀院は、大后の妹の朧月夜の尚侍と結婚しますが、これはおばおいとが結婚したことになります。

なお、光源氏が四十歳になって新たに六条院へ迎えた女三の宮は、母は藤壺中宮の異腹の妹の藤壺女御でしたから、紫の上のいとこに当ります。宇治の八宮が北の方に先立たれて、ひそかに愛したのはその姪の中将の君でした。これも身内意識による結婚ということになるでしょう。

実は、こういう近親結婚は、当時の貴族社会ではあたり前のことでした。たとえば一条天皇と彰子中宮および定子皇后とは、どちらもいとこ同士の結婚でした。その一条天皇の長男の後一条天皇は彰子の妹の威子と結婚していますから、おばおいとの間柄になります。

雲井雁の父である内大臣は、娘と夕霧との結婚を最初は「めづらしげなきあはひ(縁組み)」だとして反対しました(「少女」巻)。それほどに近親結婚はありふれた縁組みとされていたのです。

近親結婚は、自分たち一族の財産を他氏に譲ることなく、身内中で処分するという観点から行なわれたのです。それによって長い間北家藤原氏や、『源氏物語』源家の栄華が保たれたというわけです。

作成日:2013年4月21日

『源氏物語の謎』増淵勝一 著 目次

  1. 『源氏物語』はいつ書かれたか
  2. 『源氏物語』はどんな物語か
  3. 『源氏物語』の巻名はだれがつけたものか
  4. 『源氏物語』の時代設定はいつか
  5. 光源氏に愛された女性の中で、一番しあわせだったのはだれか
  6. 『源氏物語』の伝本にはどんなものがあるか
  7. 『源氏物語』の三大滑稽人物とはだれか?
  8. 『源氏物語』という書名ははじめから付けられていたものか?
  9. 『源氏物語』の「もののあはれ」とは何か?
  10. 紫式部の名の由来は?
  11. 光源氏はなぜ義母の藤壺を思慕したのか。
  12. 「桐壺」とは何か
  13. 「雨夜の品定め」とは何か
  14. 「帚木」とは何か
  15. 『源氏物語』の三箇(さんか)の大事(だいじ)とは何か
  16. 紫式部堕獄(だごく)説とは何か
  17. 『源氏物語』は古人にどう評価されたか。
  18. 紫式部はどういう生涯を送ったか
  19. 登場人物の名づけ親は誰か
  20. 源氏物語の文章の「すべらかし」調とは?
  21. 光源氏の「二条院」はどこにあったか
  22. 源氏物語に描かれた結婚形態とは
  23. 「紅葉賀(もみじのが)」とは何か
  24. 源氏物語に近親結婚が多いのはなぜか
  25. 結婚を拒否する女性
  26. 光源氏はどんな容貌・容姿であったか
  27. 源氏物語の遺跡にはどんなものがあるか
  28. 源氏物語の構成はどうなっているか
  29. 乳母(めのと)とは何か
  30. 源氏物語には何首の和歌があるか。
  31. 「総角」巻の巻名の由来は何か。
  32. 光源氏はなぜ須磨に籠居したのか。
  33. 「夢浮橋」の巻名の由来は何か
  34. 光源氏の経済的基盤はどこにあったか(1)
  35. 弘徽殿の大后のモデルは誰か
  36. 桐壺の更衣のモデルは誰か
  37. 紫式部観音化身説とは?
  38. 光源氏の経済的基盤はどこにあったか(2)
  39. 源氏物語』の登場人物は何人ぐらいいるか?
  40. 『源氏物語』に登場する敵役(かたきやく)
  41. 主な女君たちの命日
  42. 平安貴族の住居はどんなものであったか
  43. 宇治の八の宮は二人の姫君を残してなぜ出家を目指すことができたか
  44. 源氏物語が長い間読まれつづけているのはなぜか
  45. 『源氏物語』の最も古い注釈書とは
  46. 「かがやく日の宮」巻とは何か
  47. 「澪標」の巻名の由来は?
  48. 『源氏物語』に描かれた病気
  49. 紫式部の教養
  50. 古注の集大成―『河海抄』
  51. 世界文学史上の『源氏物語』
  52. 紫式部の学問観
  53. 光源氏薨後の夫人たちの生活は?
  54. 物怪(もののけ)とは何か
  55. 「宿木(やどりぎ)」とは?
  56. 女君たちの魅力は?
  57. 六条院とはどんな邸宅であったか
  58. 女三の宮と柏木との関係を知った光源氏はどう対処したか?
  59. 紫式部の住居はどこにあったか?
  60. 作り物語の『源氏物語』に実在の人物が登場するのはなぜか?
  61. 紫式部と藤原道長の関係について
  62. 源氏物語に及ぼした伊勢物語の影響
  63. 「鈴虫」の巻名の由来は?
  64. 「侍従」という女房の役割は何か
  65. 光源氏が一番美人だと認めていた女君は誰か
  66. 紫式部の墓はどこにあるか
  67. 「雲隠」の巻は原作にあったのか
  68. 男君たちの魅力は
  69. 源氏物語に見える音楽
  70. 年立ての矛盾
  71. 各巻のあらすじ(1)桐壺・帚木
  72. 女君を選ぶとしたら?
  73. 各巻のあらすじ(2)空蝉・夕顔
  74. 『源氏物語』の続編(1)―『山路の露』―
  75. 各巻のあらすじ(3)若紫・末摘花
  76. 『源氏物語奥入(おくいり)』とは
  77. 源氏香とは何か
  78. 平安時代の風呂はどんなものであったか
  79. 牛車(ぎっしゃ)とは何か
  80. 貴族の日常生活はどういうものであったか
  81. 源氏物語にはなぜ大災害が描かれていないのか
  82. 源氏物語にあらわれた宿世観
  83. 源氏物語に登場する僧侶
  84. 『源氏物語』の主役の条件

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