27 源氏物語の遺跡にはどんなものがあるか

『源氏物語の謎』増淵勝一 著 - 国研ウェブ文庫

『源氏物語』の舞台としては、京都の内裏や二条院・六条院などの邸宅をはじめとして、清水寺・賀茂神社等の社寺、比叡山や逢坂関・賀茂川・桂川等々が登場します。京都市外では、宇治・石清水神社、石山寺・長谷寺・須磨・明石などもよく知られています。

これらは実在する地名や社寺等をそのまま用いる場合と、架空のものを用いる場合とがあります。そこで宇治の八の宮邸はどこにあるのかとか、北山の僧都の寺院は鞍馬寺がモデルではないかなど、『源氏物語』の遺跡にまつわる伝承が生じて来るわけです。

とりわけ架空の登場人物の住居や墓がはっきりと伝承されている場合があり、『源氏物語』の熱烈なファンのなせるわざとはいえ、その熱意に感動してしまいます。ここではその代表的な例を、一、二紹介しましょう。

  • ○夕顔の墓 京都市下京区堺町通松原上ル夕顔町の富江氏邸の庭園内にあります。非公開。五輪の塔の墓で、江戸時代・貞享元年(1684)に成った『莵藝泥赴(つぎねふ)』にすでに紹介されており、「夕顔の宿といふは、いとあやし」とあります。京都のどまん中に夕顔の墓があるのが面白いですね。
  • ○玉鬘の大銀杏(おおいちょう) 奈良県桜井市初瀬の長谷寺の、東参道から寺の駐車場越しの、初瀬川を隔てた向う側の素盞雄(すさのお)神社の所にあります。この大銀杏の所は玉鬘一行が滞在した宿坊の故地といい、玉鬘が晩年ここに隠棲した「玉鬘庵」があったとされます。本居宣長の明和九年(1772)刊の『菅笠日記』にも紹介されています。
  • ○明石入道の墓・光源氏の浜の館等 前者は明石市大観町の善楽寺(戒光院)に所在。後者は善楽寺に隣接する無量光寺に所在。いずれも明石藩主松平忠国(1597-1659)の発議で明石関係の『源氏』ゆかりの地が制定された由です。

いずれにしてもこれらの遺跡は、架空ではない、現実の話として受けとめられていたのですね。

作成日:2013年6月2日

『源氏物語の謎』増淵勝一 著 目次

  1. 『源氏物語』はいつ書かれたか
  2. 『源氏物語』はどんな物語か
  3. 『源氏物語』の巻名はだれがつけたものか
  4. 『源氏物語』の時代設定はいつか
  5. 光源氏に愛された女性の中で、一番しあわせだったのはだれか
  6. 『源氏物語』の伝本にはどんなものがあるか
  7. 『源氏物語』の三大滑稽人物とはだれか?
  8. 『源氏物語』という書名ははじめから付けられていたものか?
  9. 『源氏物語』の「もののあはれ」とは何か?
  10. 紫式部の名の由来は?
  11. 光源氏はなぜ義母の藤壺を思慕したのか。
  12. 「桐壺」とは何か
  13. 「雨夜の品定め」とは何か
  14. 「帚木」とは何か
  15. 『源氏物語』の三箇(さんか)の大事(だいじ)とは何か
  16. 紫式部堕獄(だごく)説とは何か
  17. 『源氏物語』は古人にどう評価されたか。
  18. 紫式部はどういう生涯を送ったか
  19. 登場人物の名づけ親は誰か
  20. 源氏物語の文章の「すべらかし」調とは?
  21. 光源氏の「二条院」はどこにあったか
  22. 源氏物語に描かれた結婚形態とは
  23. 「紅葉賀(もみじのが)」とは何か
  24. 源氏物語に近親結婚が多いのはなぜか
  25. 結婚を拒否する女性
  26. 光源氏はどんな容貌・容姿であったか
  27. 源氏物語の遺跡にはどんなものがあるか
  28. 源氏物語の構成はどうなっているか
  29. 乳母(めのと)とは何か
  30. 源氏物語には何首の和歌があるか。
  31. 「総角」巻の巻名の由来は何か。
  32. 光源氏はなぜ須磨に籠居したのか。
  33. 「夢浮橋」の巻名の由来は何か
  34. 光源氏の経済的基盤はどこにあったか(1)
  35. 弘徽殿の大后のモデルは誰か
  36. 桐壺の更衣のモデルは誰か
  37. 紫式部観音化身説とは?
  38. 光源氏の経済的基盤はどこにあったか(2)
  39. 源氏物語』の登場人物は何人ぐらいいるか?
  40. 『源氏物語』に登場する敵役(かたきやく)
  41. 主な女君たちの命日
  42. 平安貴族の住居はどんなものであったか
  43. 宇治の八の宮は二人の姫君を残してなぜ出家を目指すことができたか
  44. 源氏物語が長い間読まれつづけているのはなぜか
  45. 『源氏物語』の最も古い注釈書とは
  46. 「かがやく日の宮」巻とは何か
  47. 「澪標」の巻名の由来は?
  48. 『源氏物語』に描かれた病気
  49. 紫式部の教養
  50. 古注の集大成―『河海抄』
  51. 世界文学史上の『源氏物語』
  52. 紫式部の学問観
  53. 光源氏薨後の夫人たちの生活は?
  54. 物怪(もののけ)とは何か
  55. 「宿木(やどりぎ)」とは?
  56. 女君たちの魅力は?
  57. 六条院とはどんな邸宅であったか
  58. 女三の宮と柏木との関係を知った光源氏はどう対処したか?
  59. 紫式部の住居はどこにあったか?
  60. 作り物語の『源氏物語』に実在の人物が登場するのはなぜか?
  61. 紫式部と藤原道長の関係について
  62. 源氏物語に及ぼした伊勢物語の影響
  63. 「鈴虫」の巻名の由来は?
  64. 「侍従」という女房の役割は何か
  65. 光源氏が一番美人だと認めていた女君は誰か
  66. 紫式部の墓はどこにあるか
  67. 「雲隠」の巻は原作にあったのか
  68. 男君たちの魅力は
  69. 源氏物語に見える音楽
  70. 年立ての矛盾
  71. 各巻のあらすじ(1)桐壺・帚木
  72. 女君を選ぶとしたら?
  73. 各巻のあらすじ(2)空蝉・夕顔
  74. 『源氏物語』の続編(1)―『山路の露』―
  75. 各巻のあらすじ(3)若紫・末摘花
  76. 『源氏物語奥入(おくいり)』とは
  77. 源氏香とは何か
  78. 平安時代の風呂はどんなものであったか
  79. 牛車(ぎっしゃ)とは何か
  80. 貴族の日常生活はどういうものであったか
  81. 源氏物語にはなぜ大災害が描かれていないのか
  82. 源氏物語にあらわれた宿世観
  83. 源氏物語に登場する僧侶
  84. 『源氏物語』の主役の条件

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