12 「桐壺」とは何か

『源氏物語の謎』増淵勝一 著 - 国研ウェブ文庫

『源氏物語』第一巻は「桐壺」の巻と称され、また当巻のヒロインは「桐壺の更衣」、天皇も「桐壺の帝」と言われています。「桐壺」の「壺」とは屋敷内の庭、つまり中庭のことです。その中庭に桐が植えられていると、その建物を桐壺と称し、そこに住む更衣(こうい)(女御につぐ天皇の后妃)を桐壺の更衣、その更衣を寵愛された帝を桐壺の帝と言ったのです。

内裏の天皇の住まいを清涼殿(せいりょうでん)と言いますが、その北側後方には、后妃たちの住む建物がいくつもあり、これらを総称して後宮(こうきゅう)と言います。それらは弘徽殿(こきでん)・登華殿(とうかでん)・麗景殿(れいけいでん)・宣耀殿(せんようでん)をはじめとして、中庭に各種の木を植えた飛香舎(ひぎょうしゃ)(藤壺)・凝花舎(ぎょうかしゃ)(梅壺)・昭陽舎(しょうようしゃ)(梨壺)・淑景舎(しげいしゃ)(桐壺)があり、また襲芳舎(しゅうほうしゃ)は雷の鳴ったときの天皇の避難所で、雷鳴(らいめい)の壺とも言われます。後宮には以上のほか、五節(ごせち)の舞いの試演が行なわれる常寧殿(じょうねいでん)や裁縫所である貞観殿(じょうがんでん)もあり、これは御匣殿(みくしげどの)とも呼ばれました。

要するに後宮は奥向きの御殿で、后妃や女官の居住地域なのです。桐壺の本来の名称である淑景舎は、おだやかで、よい景色の殿舎という意味になります。清涼殿からは最も離れたところにあり、身分の低い后妃の居所でした。ところがその桐壺の更衣を帝が最も寵愛したものですから、他の后妃たちから大変な嫉妬や嫌がらせを受けることになってしまったのです。

なお、この桐壺は更衣亡きあとは、光源氏の居所となります。後には源氏の娘の明石中宮が入ることになり、源氏一家が伝統的に入る建物となっています。

作成日:2012年8月25日

『源氏物語の謎』増淵勝一 著 目次

  1. 『源氏物語』はいつ書かれたか
  2. 『源氏物語』はどんな物語か
  3. 『源氏物語』の巻名はだれがつけたものか
  4. 『源氏物語』の時代設定はいつか
  5. 光源氏に愛された女性の中で、一番しあわせだったのはだれか
  6. 『源氏物語』の伝本にはどんなものがあるか
  7. 『源氏物語』の三大滑稽人物とはだれか?
  8. 『源氏物語』という書名ははじめから付けられていたものか?
  9. 『源氏物語』の「もののあはれ」とは何か?
  10. 紫式部の名の由来は?
  11. 光源氏はなぜ義母の藤壺を思慕したのか。
  12. 「桐壺」とは何か
  13. 「雨夜の品定め」とは何か
  14. 「帚木」とは何か
  15. 『源氏物語』の三箇(さんか)の大事(だいじ)とは何か
  16. 紫式部堕獄(だごく)説とは何か
  17. 『源氏物語』は古人にどう評価されたか。
  18. 紫式部はどういう生涯を送ったか
  19. 登場人物の名づけ親は誰か
  20. 源氏物語の文章の「すべらかし」調とは?
  21. 光源氏の「二条院」はどこにあったか
  22. 源氏物語に描かれた結婚形態とは
  23. 「紅葉賀(もみじのが)」とは何か
  24. 源氏物語に近親結婚が多いのはなぜか
  25. 結婚を拒否する女性
  26. 光源氏はどんな容貌・容姿であったか
  27. 源氏物語の遺跡にはどんなものがあるか
  28. 源氏物語の構成はどうなっているか
  29. 乳母(めのと)とは何か
  30. 源氏物語には何首の和歌があるか。
  31. 「総角」巻の巻名の由来は何か。
  32. 光源氏はなぜ須磨に籠居したのか。
  33. 「夢浮橋」の巻名の由来は何か
  34. 光源氏の経済的基盤はどこにあったか(1)
  35. 弘徽殿の大后のモデルは誰か
  36. 桐壺の更衣のモデルは誰か
  37. 紫式部観音化身説とは?
  38. 光源氏の経済的基盤はどこにあったか(2)
  39. 源氏物語』の登場人物は何人ぐらいいるか?
  40. 『源氏物語』に登場する敵役(かたきやく)
  41. 主な女君たちの命日
  42. 平安貴族の住居はどんなものであったか
  43. 宇治の八の宮は二人の姫君を残してなぜ出家を目指すことができたか
  44. 源氏物語が長い間読まれつづけているのはなぜか
  45. 『源氏物語』の最も古い注釈書とは
  46. 「かがやく日の宮」巻とは何か
  47. 「澪標」の巻名の由来は?
  48. 『源氏物語』に描かれた病気
  49. 紫式部の教養
  50. 古注の集大成―『河海抄』
  51. 世界文学史上の『源氏物語』
  52. 紫式部の学問観
  53. 光源氏薨後の夫人たちの生活は?
  54. 物怪(もののけ)とは何か
  55. 「宿木(やどりぎ)」とは?
  56. 女君たちの魅力は?
  57. 六条院とはどんな邸宅であったか
  58. 女三の宮と柏木との関係を知った光源氏はどう対処したか?
  59. 紫式部の住居はどこにあったか?
  60. 作り物語の『源氏物語』に実在の人物が登場するのはなぜか?
  61. 紫式部と藤原道長の関係について
  62. 源氏物語に及ぼした伊勢物語の影響
  63. 「鈴虫」の巻名の由来は?
  64. 「侍従」という女房の役割は何か
  65. 光源氏が一番美人だと認めていた女君は誰か
  66. 紫式部の墓はどこにあるか
  67. 「雲隠」の巻は原作にあったのか
  68. 男君たちの魅力は
  69. 源氏物語に見える音楽
  70. 年立ての矛盾
  71. 各巻のあらすじ(1)桐壺・帚木
  72. 女君を選ぶとしたら?
  73. 各巻のあらすじ(2)空蝉・夕顔
  74. 『源氏物語』の続編(1)―『山路の露』―
  75. 各巻のあらすじ(3)若紫・末摘花
  76. 『源氏物語奥入(おくいり)』とは
  77. 源氏香とは何か
  78. 平安時代の風呂はどんなものであったか
  79. 牛車(ぎっしゃ)とは何か
  80. 貴族の日常生活はどういうものであったか
  81. 源氏物語にはなぜ大災害が描かれていないのか
  82. 源氏物語にあらわれた宿世観
  83. 源氏物語に登場する僧侶
  84. 『源氏物語』の主役の条件

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