34 光源氏の経済的基盤はどこにあったか(1)

『源氏物語の謎』増淵勝一 著 - 国研ウェブ文庫

『源氏物語』や『伊勢物語』等のどこを読んでも光源氏や業平らが、おカネを出して何かを買ったとか、あるいは給料日に給料を受け取ったとかいうような記事は、一切出て来ません。つまりこれは貨幣が実質的にはほとんど流通していなかったという事実を示しているのです。

市場では、銭(貨幣)も多少は使われたでしょうが、多くは米や絹布やその他の産物等で物々交換が行なわれていたのでしょう。ただし光源氏や業平らの貴族たちは、めったなことでは、そういう市場などには行かなかったはずです。

光源氏をはじめとする貴族階級は、想像以上に荘園という私有地(田畑・牧場など)を持っていたのです。たとえば源氏は朧月夜事件で須磨に隠棲しますが、「近き所々の御庄の司(つかさ)召して、さるべきことどもなど、良清の朝臣、親しき家司にて、仰せ行」った結果、あっという間に見ごとな住居が落成するのです。

薫は宇治の八の宮の亡くなったあと、大君・中君・浮舟らの世話をすることになりますが、それは薫が宇治の地に多数の荘園を持っていたから、できたことなのです。夕霧も正妻となる落葉の宮(柏木前夫人)を小野の地に訪ねて求婚しつづけますが、従者たちを近所の荘園に待機させています。

光源氏ら中央の権門の荘園は不輸租田といって租税が免除されています。そこで地方の豪族があらそって土地を権門に寄進し、豪族自身はその荘司となって、国司の誅求(ちゅうきゅう)から免れようとする傾向が生じました。その結果権門・勢家には荘園が集中し、これをさらに堅固に保持するためには、官位昇進を図ったり、子女を宮廷に宮使えさせたり、他の権門の貴公子と通婚させたりなどして、荘園の停廃・奪取を防いだのです。光源氏らの経済を支えていたのは、実はこの荘園経済だったのです。

作成日:2013年8月23日

『源氏物語の謎』増淵勝一 著 目次

  1. 『源氏物語』はいつ書かれたか
  2. 『源氏物語』はどんな物語か
  3. 『源氏物語』の巻名はだれがつけたものか
  4. 『源氏物語』の時代設定はいつか
  5. 光源氏に愛された女性の中で、一番しあわせだったのはだれか
  6. 『源氏物語』の伝本にはどんなものがあるか
  7. 『源氏物語』の三大滑稽人物とはだれか?
  8. 『源氏物語』という書名ははじめから付けられていたものか?
  9. 『源氏物語』の「もののあはれ」とは何か?
  10. 紫式部の名の由来は?
  11. 光源氏はなぜ義母の藤壺を思慕したのか。
  12. 「桐壺」とは何か
  13. 「雨夜の品定め」とは何か
  14. 「帚木」とは何か
  15. 『源氏物語』の三箇(さんか)の大事(だいじ)とは何か
  16. 紫式部堕獄(だごく)説とは何か
  17. 『源氏物語』は古人にどう評価されたか。
  18. 紫式部はどういう生涯を送ったか
  19. 登場人物の名づけ親は誰か
  20. 源氏物語の文章の「すべらかし」調とは?
  21. 光源氏の「二条院」はどこにあったか
  22. 源氏物語に描かれた結婚形態とは
  23. 「紅葉賀(もみじのが)」とは何か
  24. 源氏物語に近親結婚が多いのはなぜか
  25. 結婚を拒否する女性
  26. 光源氏はどんな容貌・容姿であったか
  27. 源氏物語の遺跡にはどんなものがあるか
  28. 源氏物語の構成はどうなっているか
  29. 乳母(めのと)とは何か
  30. 源氏物語には何首の和歌があるか。
  31. 「総角」巻の巻名の由来は何か。
  32. 光源氏はなぜ須磨に籠居したのか。
  33. 「夢浮橋」の巻名の由来は何か
  34. 光源氏の経済的基盤はどこにあったか(1)
  35. 弘徽殿の大后のモデルは誰か
  36. 桐壺の更衣のモデルは誰か
  37. 紫式部観音化身説とは?
  38. 光源氏の経済的基盤はどこにあったか(2)
  39. 源氏物語』の登場人物は何人ぐらいいるか?
  40. 『源氏物語』に登場する敵役(かたきやく)
  41. 主な女君たちの命日
  42. 平安貴族の住居はどんなものであったか
  43. 宇治の八の宮は二人の姫君を残してなぜ出家を目指すことができたか
  44. 源氏物語が長い間読まれつづけているのはなぜか
  45. 『源氏物語』の最も古い注釈書とは
  46. 「かがやく日の宮」巻とは何か
  47. 「澪標」の巻名の由来は?
  48. 『源氏物語』に描かれた病気
  49. 紫式部の教養
  50. 古注の集大成―『河海抄』
  51. 世界文学史上の『源氏物語』
  52. 紫式部の学問観
  53. 光源氏薨後の夫人たちの生活は?
  54. 物怪(もののけ)とは何か
  55. 「宿木(やどりぎ)」とは?
  56. 女君たちの魅力は?
  57. 六条院とはどんな邸宅であったか
  58. 女三の宮と柏木との関係を知った光源氏はどう対処したか?
  59. 紫式部の住居はどこにあったか?
  60. 作り物語の『源氏物語』に実在の人物が登場するのはなぜか?
  61. 紫式部と藤原道長の関係について
  62. 源氏物語に及ぼした伊勢物語の影響
  63. 「鈴虫」の巻名の由来は?
  64. 「侍従」という女房の役割は何か
  65. 光源氏が一番美人だと認めていた女君は誰か
  66. 紫式部の墓はどこにあるか
  67. 「雲隠」の巻は原作にあったのか
  68. 男君たちの魅力は
  69. 源氏物語に見える音楽
  70. 年立ての矛盾
  71. 各巻のあらすじ(1)桐壺・帚木
  72. 女君を選ぶとしたら?
  73. 各巻のあらすじ(2)空蝉・夕顔
  74. 『源氏物語』の続編(1)―『山路の露』―
  75. 各巻のあらすじ(3)若紫・末摘花
  76. 『源氏物語奥入(おくいり)』とは
  77. 源氏香とは何か
  78. 平安時代の風呂はどんなものであったか
  79. 牛車(ぎっしゃ)とは何か
  80. 貴族の日常生活はどういうものであったか
  81. 源氏物語にはなぜ大災害が描かれていないのか
  82. 源氏物語にあらわれた宿世観
  83. 源氏物語に登場する僧侶
  84. 『源氏物語』の主役の条件

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