41 主な女君たちの命日
『源氏物語の謎』増淵勝一 著 - 国研ウェブ文庫
『源氏物語』には開巻「桐壺」の巻からして、更衣の死やその母君の死が描かれ、以下夕顔(「夕顔」巻)・紫の上の祖母君(「若紫」巻)・葵の上(「葵」巻)・六条御息所(「澪標」巻)・藤壺(「薄雲」巻)・葵の上母の大宮(「藤袴」巻)・落葉の宮母の一条御息所(「夕霧」巻)・紫の上(「御法」巻)・女二の宮母の藤壺女御(「宿木」巻)・宇治の大君(「総角」巻)らの死が述べられています。
彼女たちのうち、亡くなった月日の記されているのを、早い順に並べてみます。
- 藤壺 三月(三十七歳)
- 大宮 三月二十日
- 桐壺の更衣 夏
- 藤壺女御 夏
- 紫の上 八月十五日
- 夕顔 八月十六日
- 葵の上 八月中旬
- 六条御息所 八月
- 一条御息所 八月下旬
- 宇治の大君 十一月中旬(豊明の夜)
以上によると、紫の上や夕顔・葵の上・六条御息所ら光源氏の主な妻室や愛人たちは、ほとんどが八月十五夜ごろの死去とされています。これはたぶん八月十五夜に月に昇って行ったかぐや姫のイメージに重ね合わせて、彼女たちが佳人で、薄命であったことを強調しているのでしょう。
藤壺は源氏の永遠の恋人ですが、義母であり、源氏の愛を受け入れるわけにはいかなかったのですから、他の恋人や妻室とは違う扱いになっています。桜の季節の臨終は、格段の美しい逝去を迎えたというべきでしょう。なお、薫の恋人の大君ははなやかな豊明の日に亡くなっていますが、寒い十一月で、世俗のにぎわいをよそに、凛(りん)とした清らかな臨終を迎えた印象を受けます。紫式部が女君たちの命日にまで気配りをして書いていたことがよくわかるのです。
作成日:2013年12月7日
『源氏物語の謎』増淵勝一 著 目次
- 『源氏物語』はいつ書かれたか
- 『源氏物語』はどんな物語か
- 『源氏物語』の巻名はだれがつけたものか
- 『源氏物語』の時代設定はいつか
- 光源氏に愛された女性の中で、一番しあわせだったのはだれか
- 『源氏物語』の伝本にはどんなものがあるか
- 『源氏物語』の三大滑稽人物とはだれか?
- 『源氏物語』という書名ははじめから付けられていたものか?
- 『源氏物語』の「もののあはれ」とは何か?
- 紫式部の名の由来は?
- 光源氏はなぜ義母の藤壺を思慕したのか。
- 「桐壺」とは何か
- 「雨夜の品定め」とは何か
- 「帚木」とは何か
- 『源氏物語』の三箇(さんか)の大事(だいじ)とは何か
- 紫式部堕獄(だごく)説とは何か
- 『源氏物語』は古人にどう評価されたか。
- 紫式部はどういう生涯を送ったか
- 登場人物の名づけ親は誰か
- 源氏物語の文章の「すべらかし」調とは?
- 光源氏の「二条院」はどこにあったか
- 源氏物語に描かれた結婚形態とは
- 「紅葉賀(もみじのが)」とは何か
- 源氏物語に近親結婚が多いのはなぜか
- 結婚を拒否する女性
- 光源氏はどんな容貌・容姿であったか
- 源氏物語の遺跡にはどんなものがあるか
- 源氏物語の構成はどうなっているか
- 乳母(めのと)とは何か
- 源氏物語には何首の和歌があるか。
- 「総角」巻の巻名の由来は何か。
- 光源氏はなぜ須磨に籠居したのか。
- 「夢浮橋」の巻名の由来は何か
- 光源氏の経済的基盤はどこにあったか(1)
- 弘徽殿の大后のモデルは誰か
- 桐壺の更衣のモデルは誰か
- 紫式部観音化身説とは?
- 光源氏の経済的基盤はどこにあったか(2)
- 源氏物語』の登場人物は何人ぐらいいるか?
- 『源氏物語』に登場する敵役(かたきやく)
- 主な女君たちの命日
- 平安貴族の住居はどんなものであったか
- 宇治の八の宮は二人の姫君を残してなぜ出家を目指すことができたか
- 源氏物語が長い間読まれつづけているのはなぜか
- 『源氏物語』の最も古い注釈書とは
- 「かがやく日の宮」巻とは何か
- 「澪標」の巻名の由来は?
- 『源氏物語』に描かれた病気
- 紫式部の教養
- 古注の集大成―『河海抄』
- 世界文学史上の『源氏物語』
- 紫式部の学問観
- 光源氏薨後の夫人たちの生活は?
- 物怪(もののけ)とは何か
- 「宿木(やどりぎ)」とは?
- 女君たちの魅力は?
- 六条院とはどんな邸宅であったか
- 女三の宮と柏木との関係を知った光源氏はどう対処したか?
- 紫式部の住居はどこにあったか?
- 作り物語の『源氏物語』に実在の人物が登場するのはなぜか?
- 紫式部と藤原道長の関係について
- 源氏物語に及ぼした伊勢物語の影響
- 「鈴虫」の巻名の由来は?
- 「侍従」という女房の役割は何か
- 光源氏が一番美人だと認めていた女君は誰か
- 紫式部の墓はどこにあるか
- 「雲隠」の巻は原作にあったのか
- 男君たちの魅力は
- 源氏物語に見える音楽
- 年立ての矛盾
- 各巻のあらすじ(1)桐壺・帚木
- 女君を選ぶとしたら?
- 各巻のあらすじ(2)空蝉・夕顔
- 『源氏物語』の続編(1)―『山路の露』―
- 各巻のあらすじ(3)若紫・末摘花
- 『源氏物語奥入(おくいり)』とは
- 源氏香とは何か
- 平安時代の風呂はどんなものであったか
- 牛車(ぎっしゃ)とは何か
- 貴族の日常生活はどういうものであったか
- 源氏物語にはなぜ大災害が描かれていないのか
- 源氏物語にあらわれた宿世観
- 源氏物語に登場する僧侶
- 『源氏物語』の主役の条件
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